J-PARCの加速器群

加速器について

J-PARCは、陽子を加速する3台の大型加速器を持っています。陽子が数兆個から数十兆個もの塊となった陽子ビームは、加速空洞というビームを加速する装置や、何百個もの電磁石に挟まれた細い真空パイプの中を通過しながら徐々に速度を上げ、光速の99.95%※まで加速され研究施設へ供給されます。陽子ビームが大気中の酸素分子や窒素分子に邪魔されずに真っ直ぐに進めるように、パイプの中は、宇宙空間と同じくらいの真空状態を実現しています。※30GeVに対応。3GeVでは97.12%。

J-PARCの加速器は、日本の高い技術力で作られた超精密な機械群であり、世界最高強度の高エネルギー陽子ビームを作りだすことができます。

リニアック(直線型加速器)全長約330m

J-PARCの陽子ビームは、水素ガスから陽子1個と電子2個から成る「負水素イオン」のプラズマ(電気を帯びた気体)の塊を作り、直線型の加速器「リニアック」で加速するところから始まります。リニアックでは、多数並んだ「加速空洞」と呼ばれる円筒型のタンク中を負水素イオンの塊(「バンチ」と呼ばれます)の通過タイミングに合わせて、「クライストロン」という装置を使って発生させた324MHz(上流側)および972MHz(下流側)の電磁波を伝えることで、電場の力で加速させています。加速空洞は41台並んでおり、最終的な運動エネルギーは400MeV、速度にして光速の71%になります。

DTL

加速空洞の1つ、DTL(ドリフト・チューブ・リニアック)

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RCS(3GeVシンクロトロン、周回型加速器)周長約350m

リニアックで加速された負水素イオンの塊は、周回型加速器である3GeVシンクロトロン加速器(Rapid-Cycling Synchrotron、RCS)に入射するところで、炭素でできた薄い膜を通過します。すると2個の電子がはぎ取られ、陽子だけの塊、陽子ビームになります。リニアックでは多数並んでいた加速空洞タンクは、シンクロトロンでは十台ほどしかありません。その代わりに、陽子ビームは1台数トンから数十トンにもなる大きな電磁石約160台によって、曲げられ、収束しながら、ドーナツ状のビームダクトの中を1万回以上回ります。1周回るごとに加速空洞から電場によってエネルギーをもらって加速するので、最終的に運動エネルギーは3GeV(速度にして光速の97%)にまで達します。RCSの加速空洞は、独自に開発された優れた性能を持ち、J-PARCの特徴である世界最高強度の加速性能を支えています。RCSで加速された陽子ビームのうち大部分は、物質・生命実験施設に送られ実験に利用されます。一部分はさらに次の加速器であるMR(主リングシンクロトロン)に送られます。

加速空洞

加速空洞

「金属磁性体コア」を使用することで高い加速勾配を実現し短い区間で効率よく高い加速電圧を得ています。この技術もJ-PARCの世界最高強度の加速性能を支えています。 

入射部

入射部

右奥側から負水素イオンビームがリニアックからやって来て、左側のRCSリングと合流する時に電子がはぎ取られ陽子になり、RCSリングで周回していた他の陽子ビームと合流し電流が増加します。ビームを曲げるための偏向電磁石(青)や収束するための四極電磁石(オレンジ)などが規則正しく設置されています。伝統的に、電磁石はカラフルに塗装されることが多いです。

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MR(30GeV主リング、周回型加速器)周長約1600m

直径約500m、周長1567.5m。我が国最大の陽子シンクロトロン加速器(Main Ring、MR)です。MRでは、電磁石の組み合わせを工夫することにより、加速中にビームの損失を抑える世界初の設計を採用しています。RCSからそれぞれ二十兆個以上の陽子を含む8つの塊(バンチ)を受け取り、細長い超巨大なドーナツ型の真空ダクト中を1.4秒間で約30万周回る間に加速空洞をその回数分通り抜け、その1回ごとに少しずつ加速されます。最終的な陽子ビームの運動エネルギーは30GeV、速度にして光速の99.95%に達します。加速後、この大強度の陽子のバンチをハドロン実験施設とニュートリノ実験施設に送り出し、各施設で標的にぶつけて二次粒子を生成し素粒子・原子核実験が行われます。

偏向電磁石(青)と四脚電磁石(黄)

偏向電磁石(青)と四脚電磁石(黄)

陽子の進行方向を曲げる偏向電磁石(青)と、ビームを収束させるための四極電磁石(黄)など。ここでもカラフルな塗装が施されています。トンネルのカーブがRCSより緩く、結果として加速器リングのサイズが大きいのは、運動エネルギーが高くなると陽子が重くなり※、同じような大きさの磁場ではあまり曲がらなくなる事を反映しています。

※光速に近づくほど物体は重くなる、相対論的効果。

ニュートリノ ビームライン分岐付近の偏向電磁石(橙)と四極電磁石(黄)

ニュートリノ ビームライン分岐付近の偏向電磁石(橙)と四極電磁石(黄)

加速されたビームは実験施設へ送られます。中央に見えるパイプがMRの周回リングダクトです。左側はリングの内側を向いたニュートリノビームラインと呼ばれるビームラインで写真奥の方にかすかに見える青い磁石は超伝導電磁石です、右側の太いパイプは、加速したが事情があって使わないビームや試験用のビームを捨てるビームダンプへ導くアボートビームラインで写真奥が終点です。

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