素粒子・原子核研究

原子核の構造を探る

原子核を作っている陽子や中性子は、3個のクォークからなる「バリオン(重粒子)」と呼ばれる複合粒子です。一対のクォークと反クォークからなる複合粒子を「メソン(中間子)」といいます。バリオンやメソンのように、複数のクォークが強い力で結合してできた粒子を「ハドロン」といい、現在では、陽子や中性子に限らず、種類の異なるクォークの組み合わせや、クォーク間を結びつけている状態の違いなどから、たくさんのバリオンとメソンがあることが知られています。これらのハドロンを詳しく調べることで、物質の根源が何であるかという謎に迫ります。また、これらのバリオンで、ストレンジ・クオークを含む「ラムダ粒子」や「グザイ粒子」(「ハイペロン」という)は、星の進化の最終段階にあり、太陽の100兆倍以上もの密度を持つ中性子星の中心部に存在するといわれています。陽子や中性子に加え「ハイペロン」を含む「ハイパー原子核」を調べることにより、中性子星の内部の構造やその成り立ちの解明も目指しています。

ハドロン実験施設

 MRで加速された陽子ビームを金の標的にあてることで、多種多様な二次粒子ビームを作り出します。現在は、3本のビームラインが設置されており、それぞれの実験の目的にあわせた最先端かつオリジナルな検出器で、物理現象を精密に測定しています。

SKS測定器とHyperbell-J

 原子核を構成する陽子と中性子は核子と呼ばれ、核力という引力により結び付けられています。しかし核子を近づけていくと、逆に大きな反発力が動くことが知られています。ハドロン実験施設では、陽子から生成したK中間子ビームから、通常には存在しないストレンジ・クォークを含む原子核(ハイパー原子核)を人口的に作り出し、この謎に迫る実験をおこなっています。ハイパー原子核の生成は、「ビームスぺクトロメータ」とSKS(Superconducting Kaon Spectrometer)測定器」によって確かめます。

 陽子の数と中性子の数が入れ替わった原子核は、鏡像核と呼ばれ、質量や構造がもとの原子核と同じに保たれる「荷電対称性」という性質を持ちます。しかし、それぞれの原子核にストレンジ・クォークを一つ含む粒子(ラムダ粒子)を1個加えると質量が大きく異なってしまう、ついう不思議な現象が、SKS測定器の中のHyperball-Jという検出器を用いて発見されました。この現象が解明されれば、高密度に圧縮された中性子星内部の物質にラムダ粒子がどのように現れるかがわかり、中性子星の内部の理解が進むと期待されます。

SKS測定器とHyperbell-J

SKS測定器とHyperbell-J

KOTO実験測定器

 宇宙の始まりでは同じ量だけ存在していたとされる物質と反物質のうち反物質が現在は消えてしまった理由は、まだ安全に解明されていません。ハドロン実験施設では、陽子ビームが作り出す大量の中性K中間子を用いてその謎に迫る実験(KOTO実験)をおこなっています。

 KOTO実験では、数百億回に一度の割合で、中性のK中間子が中性のパイ中間子と二つのニュートリノに移り変わる(崩壊する)現象を世界の初めて測定することを目指します。直径2メートルで長さ3メートルの真空槽を大型のガンマ線検出器で囲み、この崩壊を測定します。

Inner Barrel検出器

Inner Barrel検出器

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素粒子の謎を解き明かす

宇宙の物質はバリオン(陽子や中性子)から成り立っていて、反物 質(反バリオン)が見当たらないのはなぜなのでしょうか。この謎に 深く関わっているのが、ニュートリノという小さな素粒子であると考 えられています。J-PARC では 3 世代あるニュートリノが、飛行中 に別の世代に変身する「ニュートリノ振動」を調べる「T2K(Tokai to Kamioka)実験」を行っています。T2K 実験では 2013 年、世界 に先駆けてミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに変身する現 象を発見しました。現在は、宇宙から反物質が消えた謎に迫るため、 ニュートリノの反粒子である反ニュートリノを大量に作り出し、その振 動現象を調べる実験を行っています。

ニュートリノ振動のイメージ

ニュートリノ振動のイメージ

標準論理に登場する17種類の素粒子

標準論理に登場する17種類の素粒子

ニュートリノ実験施設

 T2K実験では、J-PARCの加速器で生み出した大量の陽子をグラファイトの標的にあてて、ニュートリノを人工的に作り出しています。このニュートリノを「前置検出器」で確認してから、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある、京都大学宇宙線研究所の検出器「スーパーカミオカンデ」に飛ばし、その間の変化を観測します。

これまでにT2K実験は、J-PARCで作り出した第2世代のミュー型ニュートリノが、飛行中に第1世代の電子型ニュートリノに変身する「電子型ニュートリノ出現現象」を観測することに世界で初めて成功しました。現在は、電磁ホーンに流す電流の向きを逆転させて、ニュートリノの反粒子であるニュートリノビームを作りだし「反電子型ニュートリノ出現現象」を観測、前者との違いがあるかどうかを検証する実験を進めています。もしニュートリノと反ニュートリノで振動現象に差があれば、それは、ニュートリノでは粒子・反粒子の性質に違いがある(CP対称性が破れている)ことを意味しており、宇宙の創生時、私たちを作っている物質と同じように存在していたとされる反物質が現在はとんど存在しない理由を説明する鍵になろうと考えられています。

T2K実験のイメージ

T2K実験のイメージ

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