トピックス

2019.07.05

J-PARC News 第170号

≪topics≫

■MLFでビーム強度 1MW・10時間半の連続試験運転を実施(7月3日)

 物質・生命科学実験施設(MLF)では、昨年の7月3日に実施の1MW安定運転の成功に引き続き、今月3日には施設の目標強度である1MW相当の陽子ビームで10時間半の連続試験運転を行い、稼働率が99%を超える安定したビーム運転に成功しました。ターゲット容器は、全体の溶接個所を大幅に低減し堅牢性と信頼性を高めたものを昨年10月から使用してきたものです。今後、現在の500kWの利用運転から段階的に高い出力を目指し、詳細なデータ収集、解析を行いつつ安全・安定な運転を続けてまいります。

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■茨城大学大学院生 中沢雄河さんが 負ミュオニウムイオンの加速実験を成功に導いた負水素イオン源を開発(6月11日、HP掲載)

 素粒子ミュオンの性質を調べる研究グループは、異常磁気能率(g-2)と電気双極子能率(EDM)の精密測定のために必要な高エネルギーで高品質のミュオンビームをつくる実験を行なっています。このたび、ミュオンを加速する装置を調整するための新しい負水素イオン源を開発しました。このグループに参加する茨城大学大学院生の中沢さんが、KEK特別研究員として挙げた成果です。
 開発したイオン源は、加速後のミュオンにかける磁場の調整とともに、ミュオンの減速装置としての機能も兼ねています。J-PARC加速器でつくられたミュオンビームは進行方向や運動量がまちまちで、それらのそろった高品質のビームを得るために、ミュオンビームを一旦減速してミュオニウムを生成し、それをイオン化することで得られる超低速ミュオンを再加速するという手法を用います。加速後のミュオンビームに磁場をかけて、欲しい運動量を持つミュオンだけを取り出すのですが、そのための磁場の調整は、時間のかかる作業です。開発した装置の中のアルミ板標的に上から光ファイバーで紫外光を当てると、負水素イオンが発生します。ミュオンビームの代わりに同じ運動量を持つ負水素イオンを発生させて、磁場の調整ができます。こうして事前に磁場の調整をしておくことで、J-PARC加速器を用いた限られた実験期間内で試験を実施することができるようになりました。今回の試験では、超低速ミュオンの代用として、開発したイオン源装置の標的をカプトンとアルミニウムでできた標的に取り替え、J-PARC加速器からのミュオンビームを入射・減速して生成される負ミュオニウムイオンの加速に成功しました。
 しかし、必要なエネルギーのミュオンビームを得るためには、この後にもう3段階もの加速を経なければなりません。中沢さんは、現在、2段階目の加速のための装置の開発に励んでいます。さらに今回用いた負ミュオニウムイオンではなく、ミュオニウムイオン化による超低速ミュオンを用いれば効率と輝度が向上し、大強度で高品質のミュオンビームが実現し、g-2とEDMの精密測定が可能になります。g-2はミュオンの持つ磁気の大きさに関する量ですが、素粒子の標準理論で示される値よりも大きいことが海外の実験で示唆されており、中沢さんたちの実験が標準理論を超える新しい物理の発見につながるかもしれません。
詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/c/topics/2019/06/11000271.html

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■県内中性子利用連絡協議会総会で齊藤直人センター長が特別講演「J-PARCで未来を加速する」(6月20日、IQBRC)

 茨城県は、MLFに設置の県ビームラインを中心に中性子の利用を促進する目的で、県内中性子利用連絡協議会を設置しています。今般、IQBRCにおいて総会が開催されました。総会には会員企業等から多数の参加者があり、協議会関係者が中性子産業利用の現状と県の取組み、J-PARC利用事例を報告しました。特別講演として、齊藤直人J-PARCセンター長が「J-PARCで未来を加速する」と題して、J-PARCで展開するサイエンス、中性子の産業利用成果などを詳しく解説しました。

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■J-PARC安全の日(5月24日、J-PARC)

 J-PARCセンターは、平成25年5月23日の「ハドロン実験施設における放射性物質漏洩事故」の教訓を風化させることなく“職員の安全意識を高める”「安全の日」を、5月24日に実施しました。

(1)安全情報交換会開催(J-PARC研究棟)

 情報交換会では、昨年度の各職場での安全への取組みに対するセンター長表彰で、良好事例の「最多賞」、「創意工夫賞」、「衛生配慮賞」の各賞受賞グループが表彰されました。続いて、安全に関するサイエンストークでは放射線管理セクションの西藤文博氏が、「万一の被ばく事故に備えた迅速的・簡易的な線量推定方法に関する検討結果」について発表しました。また、各職場における安全作業の紹介として、MLFからの重量物所内運搬作業と、情報システムセクションでの仮設発電機使用時における安全対応について担当者から報告があり、J-PARC内での情報共有が図られました。

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(2)安全文化醸成研修会開催

 今年は、オフィス風の道代表の永井弥生先生(元群馬大学病院 医療の質・安全管理部長)をお招きし、「強く安全な組織に必要な『人』の力」と題して講演をいただきました。医療現場では、医師、スタッフ、患者さんの関わりがとても多いため、コミュニケーションや安全確保における思い込み対策の重要性について、病院の安全管理部長としての体験談を踏まえた貴重なお話を伺うことができました。続いて、6年前の放射性物質の漏洩事故に関する記録映像上映、石井哲朗安全統括副センター長の “ケガをしない・させない”など「安全の考え方の原点」の講話で研修会を終えました。

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■J-PARC請負業者等安全衛生連絡会開催(6月26日、J-PARC)

J-PARCの施設運転及び施設や装置のメンテナンスには、多数の請負業者の方々が作業に携わっています。J-PARCは 7月から始まる夏期メンテナンスの前に、業者の方々と職員が安全意識を共有し、安全確保の徹底を図る目的で、6月26日に J-PARC請負業者等安全衛生連絡会を開催しました。今年は、65社71名、J-PARC関係者17名の参加がありました。

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■J-PARC科学実験教室(6月12日/東海村立中丸小学校、13日/同白方小学校)

 6月12、13日に東海村内2つの小学校で、モーターを題材にした科学実験教室をJ-PARCハローサイエンスの一環として開催しました。教室では、世界初のモーター(ファラデーモーター)や、電磁石のコイルに流す電流の向きを手動で切り替えてコイルを回転させる手動モーター、コイル状に巻いた銅線の中を勢いよく走る乾電池の実演などに児童は興味深く見入っていました。続いて、磁石、アルミ箔、乾電池、銅線を使い、磁場と銅線に流れる電流が作る磁力で銅線を回転させる、単極モーターの工作に取り掛かりました。銅線をバランス良く曲げるのに苦戦しながらも、うまく回った時は歓声が上がり、手をたたいて喜ぶ姿が見られました。

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■J-PARCハローサイエンス「ミュオンを使って物質を探る!」(5月31日、東海村・情報プラザ「アイヴィル」)

 5月のJ-PARCハローサイエンスは、幸田章宏氏がミュオンについて講演しました。中性子と同様に物質内部を原子レベルで調べることが出来るミュオン粒子、ミュオンが生まれるときにスピン(回転)の方向が揃っているなどの特徴を利用した物質研究の手法となるミュオンスピン回転・緩和・共鳴法(μSR法)について説明しました。そして、最近の研究成果として、前号で取り上げた、水素で走る燃料電池自動車などへの利用に期待がかかる水素貯蔵材料物質のひとつMgH2材料が、粉砕加工することでより水素を取り出しやすくなるしくみを解明した成果を紹介しました。参加者からの質問に答えながら和やかに講演が進められました。

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■加速器運転計画

 7月から9月は夏期メンテナンス期間となり、7月の運転期間は7日までです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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