トピックス

2022.09.30

J-PARC News 第209号

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■プレス発表

(1)クォーク間の「芯」をとらえた-物質が安定して存在できる理由の理解に貢献-(9月5日)

 陽子、中性子など、核子の間にはたらく核力については、2核子が重ならない程度に離れた距離では引力がはたらきますが、2核子が重なるほどに近づくと反発力(斥力)へと変化し、さらに2核子の重なりが増えるとあたかも「芯」があるかのように斥力が急激に強くなります。このような核力の性質によって物質は安定して存在ができます。この中で斥力を作る主因の一つは「クォークのパウリ原理」と考えられていますが、斥力の強さなどの実験的な情報は今まで全くありませんでした。
 東北大学、京都大学、KEK、JAEA、大阪大学などからなる国際共同実験E40グループは、J-PARCのハドロン実験施設を使い、ストレンジクォークを含むΣ+と陽子の散乱微分断面積を高精度で測定することに、世界で初めて成功しました。微分断面積は、粒子間にはたらく力を敏感に反映します。また、Σ+と陽子は、クォークレベルで考えるとパウリ原理から同時に存在できず斥力が働く状態を持っています。
 測定の結果、散乱する2つの粒子が3割程度重なり合う距離では核力はまだ引力であるのに対し、Σ+陽子間の力はすでに核力の引力に比べて2倍程度も強い斥力になっていることが分かりました。今まで未知であったクォーク間のパウリ斥力の強さを決定したことで、核力の短距離での斥力の理解が一層進むと期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2022/09/05001005.html

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(2)省エネ、省スペース! チタンを活用した超高真空ゲッターポンプを発明
 -カーボンニュートラルな持続可能社会に大きく貢献!-(9月6日)

 J-PARCでは、チタンを材料とした真空容器を電源が不要な超高真空ポンプとして活用できる技術を構築しました。これにより、電子顕微鏡の真空性能が向上することも実証しました。
 J-PARCの加速器ビームラインでは、これまでチタンを使用しており、チタン材料から真空中に放出される気体を低減するための熱処理や表面研磨などの研究を実施してきました。今回の研究ではこのチタンが気体を吸着・吸収するゲッター性能に着目し、チタンで作られた真空容器の表面を改質することで、真空容器自体を超高真空ポンプにしました。このチタン製真空容器型超真空ゲッターポンプは、一度真空にすると、従来のように真空ポンプを稼働し続けなくても超高真空に近い状態が200日以上持続できることを実証しました。さらに電子顕微鏡に取り付けると、真空性能が一桁向上することを確認しました。
 本技術は電源なしで真空を維持したまま半導体部品等を輸送する容器への利用や半導体の製造装置の小型化・省電力化にもつながり、カーボンニュートラルな持続可能社会に大きく貢献します。
 なお、本成果は特許公開(特開2022-027577)されています。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2022/09/06001006.html

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■J-PARCオンライン施設公開2022を開催
 多くの皆様のご視聴、ありがとうございました(8月27日)

 今年は「オンラインでしか入れない!?J-PARCの最深部大公開!」と題して、昨年、一昨年と同様、オンラインで施設公開を行いました。J-PARCを構成する加速器、実験施設からの生中継や動画を用いての解説の中に、研究者の普段聞けないトークを織り交ぜ、YouTubeやニコニコ生放送を通じてライブ配信を行いました。
 また、この施設公開の中でハローサイエンスを行い、「写真フィルムで素粒子”ニュートリノ“と宇宙の謎を研究する」と題するテーマで、福田努 名古屋大学未来材料・システム研究所特任助教に、海外での実験経験を含め、講演いただきました。「Zoomにて質問しよう!」コーナーへご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 当日の様子は、こちらからご覧いただけます。
YouTube https://www.youtube.com/watch?v=r_B3dYFplJg
ニコニコ生放送 https://live.nicovideo.jp/watch/lv337870337(スマートフォン・タブレットでのニコニコ生放送タイムシフト視聴には、アプリのダウンロードが必要です。)

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■JASIS2022に出展(9月7日~9日、幕張メッセ国際展示場)

 最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS2022」は、アジア最大級の分析・科学機器の展示会です。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)とJAEAの研究炉JRR-3は、中性子を用いて物質の原子・分子の配列や動きを分析する装置群を有しており、万全なコロナ対策のもと、昨年度と同様に、これらの研究成果を紹介するとともに、施設の利用促進を通じた異分野との共創や、創出する成果の社会実装を目指しています。今回は、トピックスとして加速器ディビジョンの研究から生まれたチタン製の超高真空ポンプ(プレスリリース記事参照)についてもプレゼンを行い、高い関心が寄せられました。併せてJAEAの保有する産業分野へ応用可能な知財や施設供用制度についても広く紹介しました。
 ブースには会期中1,500名弱もの来場者があり、研究者の説明に熱心に耳を傾ける姿が多数見受けられました。

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■「11th International Workshop on Sample Environment at Scattering Facilities」を開催
 (8月28日~9月1日、栃木県那須高原)

 J-PARCセンター、茨城大学フロンティア応用原子科学研究センター、KEK物質構造科学研究所、高輝度光科学研究センター、総合科学研究機構、東京大学物性研究所、東北大学金属材料研究所中性子物質科学研究センター、 JAEA物質科学研究センターが共催となり、「第11回大型散乱実験施設における試料環境の国際ワークショップ」を栃木県の那須高原で開催しました。本ワークショップは世界の中性子や放射光の実験施設で試料環境の開発や運用に携わる人たちの情報共有の場として、1999年からほぼ1年おきに 開催されてきましたが、今回はコロナ禍による2年の延期を経て4年ぶりの開催となりました。 87名の研究者、技術者が参加し、各施設の試料環境整備や技術開発に関する講演がなされたほか、コロナ禍における国際協力の在り方についても議論されました。また、日本国内では海外に比べてまだ試料環境のコミュニティーが確立していませんが、今回は初の日本開催で国内からも多くの方に参加していただきました。これを機に、国内でも試料環境に関する情報交換が活発になることを期待しています。

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J-PARCさんぽ道 ㉗ -夏期休暇実習生の見学-

 夏休みを利用し、多くの学生さんが夏期休暇実習生としてJ-PARCへ見学に来てくれました。見学対応は対面で外部の皆様と接することができる貴重な場であり、J-PARCの広報活動の中で最も重要な業務のひとつと考えています。コロナ禍での来所の制限が徐々に解除され、J-PARCでは少しずつですが賑わいを取り戻し始めました。
 対面での見学対応では、見学者の立場からすると、興味がある分野を中心に、自分が理解できるまで説明を聞くことができます。広報スタッフの立場からすると、見学者はどんなことに興味を持ち、どう説明すれば理解してもらえるのかを知る良い機会です。それは、J-PARCのホームページやパンフレットを作る際も役に立っています。
 学生さんの場合、自分の将来について考えなければならないので、J-PARCの組織としての環境も知りたいようです。ちょうど今は夏期メンテナンス中で、MLFのビームラインを整備する人などの働く姿も見てもらうことができました。質問には職場の雰囲気についてなどもありました。遠方から忙しい時間を割いて来てくれた学生さんたちが、就職候補のひとつにJ-PARCを入れてくれることを望んでいます。

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JAEAの夏期休暇実習生については、原子力人材育成センターのホームページをご覧ください。 https://nutec.jaea.go.jp/univercitycoop/university_videolibrary.html