トピックス

2023.02.24

J-PARC News 第214号

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■プレス発表

 K中間子と陽子が織りなす風変わりなバリオンを測定
 -Λ(1405)ハイペロンの複素質量の直接測定に成功-(1月26日)

 陽子や中性子のようなバリオンと呼ばれる粒子は、3つのクォークからなっています。例えば陽子は2つのアップ(u)と1つのダウン(d)クォークで構成され、バリオンの一つであるΛ(ラムダ)粒子はアップ、ダウン、ストレンジ(s)の3つのクォークからなっています。しかし、Λ(1405)は単純にこれらu、d、sの3つのクォークからなるのではなく、K-中間子(反uとsからなる)と陽子からなる風変わりな状態ではないかと長年論争が続いてきました。このような内部構造が全く異なる風変わりな状態はこれまでほとんど見つかっておらず、これを研究することでバリオンの構造や、その根底にあるクォーク間に働く強い相互作用の理解が大きく進むと考えられています。
 大阪大学、KEK、理化学研究所、JAEA、東北大学、J-PARCセンター他の研究グループは、陽子と中性子からなる重水素原子核に負電荷のK中間子(K-)を照射して中性子を蹴り出し、生じたK中間子(仮想K中間子という)が残る陽子と融合してΛ(1405)が合成される一連の反応過程を測定しました。仮想K中間子や重陽子原子核中の陽子は通常の質量より軽いため、融合してΛ(1405)を合成できます。この反応過程を散乱理論に従って分析し、そのエネルギー依存性からΛ(1405)がK中間子と陽子の散乱における共鳴状態であることが示され、その質量と幅を求めました。さらに、Λ(1405)がKと陽子の状態をとる割合がπとΣの状態をとる割合よりも優勢であることも示しました。この結果は、Λ(1405)がKと陽子の結合状態であることを支持しています。
 この成果により、直接的にはK中間子と核子間の相互作用がわかり、最近発見された新奇なK中間子原子核の性質を理解するための基礎的な情報となります。さらに、中性子星の中心部のような超高密度核物質の記述に繋がる理論の進展が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/01/26001098.html
(K中間子と原子核の束縛状態についてのプレスリリースはこちら。https://j-parc.jp/ja/topics/2019/press190124.html

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■「第17回東海フォーラム~研究開発成果の社会実装を目指して~」開催(2月9日)

 本フォーラムは、東海村等地元の皆様に日本原子力研究開発機構東海地区の活動状況をご理解していただくため、毎年開催しています。今回は4年ぶりに対面で行われ、会場の東海文化センターホールには100名の方にご来場いただきました。またオンライン配信も行われました。
 冒頭、大井川理事から、「高まる原子力への期待と機構の果たすべき役割」について報告がありました。J-PARCからは小林センター長が加速器と中性子実験についての概要を説明しました。続いて、加速器第三セクション 神谷サブリーダーから、「J-PARC加速器の真空技術を活用した省エネ・省スペースな超真空ポンプの開発」と題して、チタン製の真空容器自体を超高真空ポンプとして活用した報告を行い、チタンを超高真空ポンプへの応用に着目した理由、表面改質技術の開発、超高真空の維持を実証する実験結果、将来展開として産業への貢献等を紹介しました。
詳しくはこちら(核燃料サイクル工学研究所ホームページ)をご覧ください。
https://www.jaea.go.jp/04/ztokai/forum/
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■T2Kコラボレーションミーティング開催(2月6〜10日、AQBRC)

 2月6日から10日に、AYA'S LABORATORY量子ビーム研究センター(AQBRC)でT2Kコラボレーションミーティングが開催されました。
 今回は3年ぶりのオンサイト開催となり、海外からの研究者も含め115名が参加しました。ニュートリノビーム増強のためのMR(Main Ring)の長いシャットダウンを経て、T2K実験は4月に約2年ぶりに実験を再開する予定です。2009年の実験開始時の目標であったビーム強度750kWを越えた運転が可能になります。またJ-PARC内に設置されている前置検出器の改良作業も進行中です。ミーティングではこれらの進展が報告され、活発な議論が行われました。

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■国際アドバイザリー委員会の開催

 J-PARCセンターでは、この1年の活動や成果に対する国際的な助言をいただく場として、国際諮問委員会を2月24~25日に開催します。それに先駆けて、1月26日から2月10日まで、3つの国際アドバイザリー委員会を開催しました。

 

(1)加速器テクニカルアドバイザリー委員会(A-TAC)(1月26~27日、J-PARC及びオンライン)

 ビーム利用運転に対して、物質・生命科学実験施設(MLF)で730-830kWのビームパワーで稼働率約96%の利用運転を実施したことに対して高い評価を受けました。また、電力料金高騰による、ビーム利用運転時間減少に対して、対応策を検討するようにとの提言がありました。

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(2)核変換実験施設テクニカルアドバイザリー委員会(T-TAC)(2月3日、オンライン)

 実験施設の検討状況や、鉛ビスマス標的および陽子ビーム技術に関する研究開発の状況などを報告しました。昨年の実験施設のユーザーコミュニティ立ち上げに対する肯定的なご意見や、コミュニティを国際的な組織にしてはどうかとのご意見をいただきました。

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(3)中性子アドバイザリー委員会(NAC)(2月9~10日、J-PARC)

 MLFの現状、研究成果などについて報告しました。対面での開催は3年ぶりです。最新の研究成果と中性子源の産業利用報告等を行い、委員会から、中性子源の運転計画や進めている技術開発に関して妥当であるとの評価をいただきました。

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■J-PARCハローサイエンス 「加速器で働く超伝導電磁石」(1月27日)

 今回は低温セクションの荻津透氏が講師を務め、加速器で超伝導磁石がどのように使われてきたかについて、自身のキャリアと絡めながら紹介しました。
 超伝導は1911年に発見されていましたが、実用で使えるようになったのは1962年に合金系超伝導材料NbTiが発見されてからでした。1970年代になると超伝導NMR、医療用MRIマグネットが実用化され、1980年代に本格的に使われるようになりました。一方、加速器の分野では超伝導電磁石が非常に早くから利用され、1983年にFNAL/Tevatronで本格的な利用が始まって以降、CERN/LHCに至るまで世界各地の大型加速器で利用されています。
 荻津氏は1986年にKEKの助手となった後、1990年から1993年にかけてテキサスでSSC(Superconducting Super Collider)Laboratoryの客員研究員として超伝導磁石の試験結果の解析に従事しました。1993年にSSCの建設が中止された後はKEKに復帰し、LHCの衝突点近くでビームを収束する超伝導磁石の開発や、J-PARC加速器用の超伝導電磁石の開発に従事しました。なかでも、ニュートリノ実験施設を建設する際に、予算と工期の制約から世界で初めて左右非対称コイルによる機能結合型超伝導電磁石を開発し、これがIEEE応用超伝導分野の功労賞の受賞に繋がりました。さらに、J-PARC各施設における超伝導電磁石やMLFの将来計画についても解説しました。

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■加速器運転計画

 3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 ㉜ -梅の枝とミュオンビームライン-

 J-PARCのMLFにあるミュオンビームラインは、梅の枝のように、くねくねと曲がっています。
 梅の木は細い枝をたくさん出すので、栄養が分散します。花や実を残せそうな枝に栄養を集中させるために他の枝は剪定をする必要があり、結果として残った枝が曲がるそうです。
 中性子は磁力で曲げることができず、MLFでも中性子ビームラインは中性子源から試料を設置している実験装置まで一直線に伸びています。一方、ミュオンはプラスやマイナスの電気を帯びていて、簡単に曲げることができます。ミュオン標的で作られたミュオンは四方八方に飛び散ってしまうので、磁場をかけてビームを一定の方向に曲げることにより、ミュオンを集中させるのです。また不必要なエネルギーのミュオンを取り除くこともできます。ミュオンビームラインでも剪定が行われていることになります。
 原科研構内で梅の花が咲き始めました。ひとつひとつの花は小さく地味ですが、梅林全体を赤や白に染め、周りいっぱいに香りを漂わせ、春がすぐそばまで来ていることを教えてくれます。ミュオンの重さは陽子の9分の1しかありません。しかし紆余曲折のビームラインを通ったミュオンは、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの石や文化財の非破壊検査をはじめ、物の内部を調べる巨大な顕微鏡として、着実に成果を残しています。

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