画素数を従来から1000倍アップ!超伝導状態で4億画素の撮像に成功
大阪公立大学
J-PARCセンター
ポイント
✣ 超伝導検出器※1のイメージング素子の大画素化には、素子を極低温に冷却すること、ピクセル数を増やしピクセルの均一性を保つこと、読出し線の数が増える対策として一つの線に複数の信号を運ばせる信号多重化回路技術が必要になることなどが課題である。
✣ 新しい超伝導検出器の電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)と、30ps(ビコ秒=10-12秒)の高分解能の時間デジタル変換器(TDC)※2を装備した読み出し回路を開発し、4億画素イメージングの実証に成功。
概要
超伝導検出器は高感度に微弱な信号を検出できるため、天文学や医療などさまざまな分野で利用されており、特にイメージングへの応用研究が盛んに行われてきました。超伝導を用いたイメージング素子の高性能化と実用化には、超伝導状態を維持するために素子全体を極低温に冷却する必要があります。また、高解像度化のためピクセル数を増加させますが、各ピクセルの均一性の確保も重要です。さらに、ピクセル数増加には読出し線の数の増加も伴うため、一つの線で複数の信号を運ぶ信号多重化※3回路技術の導入が不可欠です。
大阪公立大学 大学院工学研究科の石田 武和客員教授、ヴテダン客員研究員(ベトナム・ホーチミン市技術教育大学 講師、J-PARCセンター外来研究員)、小嶋 健児客員研究員(カナダ国立粒子加速器研究所 上席研究員)、小山 富夫客員研究員、および研究基盤共用センターの宍戸 寛明教授らの研究チームは、課題を克服した新しいタイプの超伝導検出器の電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)と、30ps(ビコ秒=10-12秒)の高分解能の時間デジタル変換器(TDC)を装備した読み出し回路を開発し、4億画素イメージングの実証に成功しました(図1)。実証では、大阪公立大学、J-PARCセンター、その他機関による過去の共著論文で発表したデータを活用しました。
本研究成果は、2025年11月25日に国際学術誌「AIP Advances」にFeatured Article(注目論文)としてオンライン掲載されました。また、AIPのScilight(科学ハイライト)対象論文にも選出され、インタビュー解説記事が同時にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
超伝導検出器は先端分野で大活躍していますが、大画素撮像に向けて極低温動作環境への熱流入が大きな壁でした。新原理の超伝導検出器CB-KIDは読出し線は4本で良いので、遅延時間法と高速読出回路を組み合わせ、これまでの世界記録を1000倍も上回る大画素化に成功しました。この論文は、アメリカ物理学協会(AIP)が発行する30誌以上の学術誌の中から科学ハイライト論文として選出され、著者インタビュー記事も出版されました。本研究成果がフォトニクス分野だけではなく幅広い分野で活発に利用されることを期待しています。
研究の背景
超伝導検出器はさまざまな分野で利用されており、特にイメージングへの応用研究が盛んに行われてきました。これまで、超伝導検出器の一つであるマイクロ波運動インダクタンス検出器(MKID)が、2020年に宇宙観測用途で信号多重化を工夫して2万画素を達成したことが報告されました。また、超伝導ナノ細線単一光子検出器(SNSPD)では、遅延時間法を使うことで40万画素を実現したことが世界記録として2023年に論文発表されました。イメージング素子の大画素化には、素子を極低温に冷却すること、ピクセル数を増やしピクセルの均一性を保つこと、読出し線の数が増える対策として一つの線に複数の信号を運ばせる信号多重化回路技術が必要になることなどが課題でした。さらなる高画素化にはこのような課題を解決する技術が求められていました。
研究の内容
本研究グループは、大画素イメージングにおける超伝導検出器の課題を解決するため、新しい原理に基づく電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)を提案しました。CB-KIDは、完全超伝導状態で動作し、全長151mの検出器のうち、約1μmの局所的な運動インダクタンス(ホットスポット)を利用する点でMKIDと大きく異なります。また、SNSPDのように臨界電流近傍でなく、任意のバイアス電流で動作可能なため、熱流入や電力消費を大幅に低減できます。さらに、ホットスポット理論に基づき、信号の伝搬時間差を利用する遅延時間法と新しく重心座標を決定する概念を導入し、サブミクロンピクセル(1μm以下の画素サイズ)を実現しました。その結果、CB-KIDは4億画素イメージングを達成し、超伝導検出器の大画素化におけるブレークスルーとなりました。本技術は、従来の制約を克服し、次世代の超高解像度イメージングに向けた新しい道を拓くものです。
図3は、CB-KIDのホットスポット周りの様子を示しています。外部からエネルギーが局所的に付与されると超伝導クーパー対の一部が壊れて準粒子となり、ホットスポットができます。超伝導ナノワイヤと超伝導グランド平面の界面に電荷が発生し、絶縁層に発生する電界でプラス極性とマイナス極性の対称な電圧パルス対が誘起され、導波線路を互いに反対方向の両端の電極に向けて電磁波として高速(光のスピードの20%)で伝搬します。発生する2つの信号が両端の電極に到達する時刻の差を使ってホットスポット位置を決める方法が遅延時間法です。このホットスポットと信号の発生原理は、本研究グループが理論を導出しており、他の超伝導検出器と比べて動作原理が異なる新しいタイプの超伝導検出器です。
期待される効果・今後の展開
CB-KIDは、従来の超伝導検出器の課題を克服し、4億画素という記録的な大画素イメージングを実現しました。今後は高画素化と30psの時間分解能を活かし、天文学で宇宙観測とリモートセンシング、分光イメージング、材料分析、量子情報通信、量子イメージング、3次元深度センシング、レーザー画像検出と測距(ライダLiDAR)、生命科学イメージング、医療イメージングなど幅広い分野での応用が期待されます。さらに、トリガー信号からの信号到達までの時間依存は30ps(ピコ秒)から30秒と12桁にも亘り高精度に追跡できる機能が装備されていることから、新しい計測・解析手法が開拓され、既存技術の置き換えや補完だけではなく、革新的な用途を創出する可能性があります。
資金情報
本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)(JP16H02450、JP21H04666)、科学研究費補助金若手研究(JP21K13566、JP23K13690)、科学研究費補助金基盤研究(C)(JP22K04246)、J-PARCプロジェクト研究(2024P0501)の助成を得て実施されました。
用語解説
※1 超伝導検出器
極低温で動作し、超伝導状態の物質を利用して微弱な信号(光子、粒子、熱など)を高感度で検出する装置。特徴:高感度・低雑音(電気抵抗がゼロのため、微小なエネルギー変化も検出可能)・応答速度が速い(ナノ秒〜マイクロ秒単位での応答が可能)。用途:天文学(X線・赤外線観測)、量子情報、医療画像、粒子物理など。代表的な種類には、超伝導転移端センサー(TES)や超伝導ナノ細線単一光子検出器(SNSPD)がある。
※2 時間デジタル変換器(TDC)
時間間隔をデジタル値に変換する回路で、2つの信号間の時間差を高精度に測定するために使う。特徴:高分解能(ピコ秒(10-12秒)単位の時間差を測定可能。用途:粒子検出器、ライダ(LiDAR)、TOF(Time-of-Flight)測距、医療用イメージングなど。動作原理はスタート信号とストップ信号の間の時間をカウントし、デジタル値として出力する。アナログ信号の時間情報をデジタル処理に活かすための重要な技術である。
※3 信号多重化
超伝導検出器の信号多重化は、極低温で動作する多数の検出素子からの信号を、限られた配線や回路で効率的にまとめて読み出す技術のこと。超伝導検出器(TES、 MKID、SNSPDなど)は極低温で動作し、単一光子や微弱な放射線を高感度で検出する。多数の画素(ピクセル)を並べて大面積化・高計数率化するためには、信号を効率よく読み出す「多重化」技術が不可欠である。多重化の目的は、配線数を減らし、熱流入や装置の複雑化を防ぎつつ、多画素の情報を同時に取得することである。時間領域多重化 (TDM)はTES型カロリメータに、周波数領域多重化(FDM)はMKIDに、コード領域多重化(CDM)はTESアレイに、空間領域多重化は大規模SNSPDアレイに適用されている。
掲載誌情報
| 発表雑誌 | AIP Advances 15, 115134 (2025) |
|---|---|
| 論文名 | 400-milion-pixel superconducting delay-line camera with 30-ps readout circuit |
| 著者 | Takekazu Ishida, Hiroaki Shishido, The Dang Vu, Kenji M Kojima, and Tomio Koyama |
| DOI | https://doi.org/10.1063/5.0292145 |
| Scilight インタビュー解説記事 | https://pubs.aip.org/aip/sci/article/2025/48/481105/3373313/Ultrafast-readout-circuit-enables-100-million |
本研究は物質・生命科学実験施設BL10 NOBORU 中性子源特性試験装置を使用
