トピックス

2020.12.17

J-PARC News 第188号

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■原子空孔の配列を制御する新手法の発見(11月24日、プレス発表)

 身のまわりのいたるところで、機能材料として使われている酸化物(セラミックス)の機能は、結晶中の金属と酸素の原子の並び方(結晶構造)で決定付けられます。しかし、通常合成が行われる1000℃を超える高温では、ある特定の結晶構造を持つように狙った酸化物でつくることは実現されていませんでした。京都大学アイセムスの陰山洋教授らは、薄膜による応力を使った酸化物結晶構造の制御を試みました。ストロンチウムとバナジウムの酸化物薄膜を基板上に成長させると、基板の格子サイズに応じて、薄膜は様々な応力を受けます。様々な応力を受けた状態の試料に対し、従来よりも低温の600℃で、酸素の一部が窒素に置き換わったり、抜けて空孔になったりする反応を起こしたところ、応力がないとき、引張方向の応力があるとき、圧縮方向の応力があるときで、酸素空孔の現れる位置や周期が変化することを見出しました。本成果は、X線回折とともに、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のiMATERIAおよびNOVAを用いた中性子回折実験により求めた出発物質である酸窒化物の結晶構造から生み出されたものです。特に中性子は欠損を含む酸素と窒素の配列に関して敏感なプローブであり、当該構造評価に大きく寄与しました。今後、本研究成果と機械学習や情報技術との併用によって、設計不可能と考えられていた無機物質合成の状況が一変するだけでなく、オンデマンド型の機能開発が可能になり、磁性・イオン伝導・超伝導・触媒など様々な機能を目指した物質開発が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2020/11/24000618.html

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■発光イメージングを用いてミュオンビーム分布の計測に成功:ビームの精度診断や応用研究に期待(11月30日、プレス発表)

 加速器で生成した大強度ミュオンビームは、物質中に打ち込むことで、非破壊元素分析、物質内部の微視的な磁性、水素の挙動の研究等に利用されています。そうした研究では、ビーム中のミュオンのエネルギーや空間分布を知ることが重要です。今回、名古屋大学の山本誠一氏らは、J-PARCで得られる大強度ミュオンビームを水に照射して得られる発光画像からミュオンの空間分布情報の取得を試みました。正電荷のミュオンビームを水に照射すると、ミュオンは停止位置で崩壊し、比較的高いエネルギーの陽電子を放出します。その陽電子は水を通過する際に光(チェレンコフ光)を出します。今回、高感度CCDカメラによるその光の撮像に成功しました。さらに、ミュオンビームのエネルギーが高いほど、より深い侵入位置で発光することを確認しました。これらの発光画像の解析により、ミュオンビームのエネルギー分布や空間分布が得られることを確認しました。水とCCDカメラの組み合わせの装置は比較的簡易で、今後、ミュオンビームを用いた様々な研究において、ビームの診断などに応用されることが期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2020/11/30000620.html

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■計測システム研究会2020(11月26~27日、KEK東海キャンパス/J-PARC)
~大強度・高輝度ビーム利用実験での計測システムの現状と今後~

 本研究会は、素粒子原子核、物性、加速器科学等分野を問わず加速器を利用した実験において共通の課題である大強度・高輝度ビームをどのように利用していくかについて計測システムの観点から議論することを目的としています。今回はJ-PARCセンターの主催で、J-PARC実験を中心としてここ3年間に進んだR&Dの成果を基に、今後の開発や課題について分野を横断したテーマを設定しました。研究会は、新型コロナウイルス感染予防として、会場出席とリモート接続によるオンラインで実施されました。また、各登壇者は成果報告だけでなく技術的な課題や今後の展開についても触れ、普段の学会では触れられない話題についても議論することができました。

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■J-PARC安全監査実施(12月7日、J-PARC)

 令和2年度のJ-PARCセンター安全監査が、安全工学、放射線安全を専門とする外部監査委員2名により実施されました。監査では、石井哲朗安全統括副センター長がJ-PARCの近況、J-PARC全体の安全活動の概要及び、2019年の安全監査での委員からの提言への取組みについて報告しました。続いて、MLFにおいて作業実施状況の現場視察が行われました。その後、J-PARC各施設の責任者が安全管理の取組みについて説明し、監査委員からの聴き取りが行われました。監査委員からは、今後10年のJ-PARCの展開を念頭に置いた安全の取り組み方などについて提言がありました。

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■J-PARCハローサイエンス「ものの重さはどこからくるのか?」開催
 (11月27日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」)

 今回のハローサイエンスは、素粒子原子核ディビジョンの青木和也氏が、質量の起源とJ-PARC で行っている研究活動について講演しました。物質の質量のほとんどは陽子と中性子が担っています。陽子や中性子は3つのクォークでできていますが、クォーク3つの質量の合計よりず~っと重い!です。青木氏は、この謎を研究するためにJ-PARC ハドロン実験施設で始まろうとしているE16実験について紹介しました。質量は温度や密度といった環境の変化で変化することが、理論的に示唆されています。実際、以前KEKつくばで行われた実験では、φ(ファイ)という中間子の質量が原子核の中で減少すると解釈できる結果が観測されていました。E16 実験はこれを発展させ、桁違いの数の事象を観測して、より系統的に詳しく質量変化を研究します。今回の参加者は、”物質の質量“への関心が高く、多数質問がありました。

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■東海村子ども科学クラブでJ-PARCハローサイエンス開催
 (11月9日、16日、30日、中丸コミュニティセンター)

 11月に開催した令和2年度後期の東海村子ども科学クラブで、J-PARCセンター広報の井上直子氏と、素粒子原子核ディビジョンの三原智氏、加速器ディビジョンの杉山泰之氏、高柳智弘氏が科学実験を指導しました。村内小学校の5年生と6年生の7名が参加しました。実験は、①不思議な光の実験、②“バチッ”と決めよう静電気、③電気と磁石は仲良し、のタイトルで行われました。光の実験では波の性質について、静電気の実験では擦る物どうしの違いによる帯電の違い、電気と磁石の実験ではコイルに流れる電流と磁石(磁力線)によって発生する力を体験し、研究者がJ-PARCとの関わりについて解説しました。子どもたちからは、“J-PARCのことをもっと知りたい”などの感想が聞かれました。

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■J-PARCフォトコンテスト2020開催

 毎年秋に開催されるJ-PARCフォトコンテストは今年7回目を迎え、 J-PARC関係者、ユーザーなどから16名、計28点の作品応募がありました。 今回の受賞作品選考には外部委員2名にもご協力をいただき、最優秀賞1点、優秀賞2点、佳作7点が選ばれまし た。受賞作品の表彰式は11月12日に行われ、齊藤直人J-PARCセンター長 から各賞受賞者に表彰状と副賞が手渡されました。最優秀賞作品には、 ミュオンセクションの足立泰平氏の「花形」が選出されました。写真は、 MLFのミュオンビームラインに設置されている花形の形状をしたビームダクト内で、反射する光が醸し出した光景を青い保護フィルム越しに撮影されたものです。入選作品は、広報素材等に広く利用されます。

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■多摩六都科学館でJ-PARCハローサイエンス「傾いたまま回るコマを作ろう!」
 ~コマの回転から加速器研究の世界を見る~開催(11月29日、西東京市)

 J-PARCセンターは11月29日、多摩六都科学館の科学実験イベントで、“コマ”をテーマにした工作や実験を通してJ-PARCの先端研究の世界を紹介しました。小学校5・6年生から大人までを対象に、午前、午後の各回12名の参加者を募集、定員を上回る申込みがありました。J-PARCセンターから、ミュオン研究に携わる下村浩一郎氏(物質・生命科学副ディビジョン長)、大谷将士氏(加速器ディビジョン)の2名の研究者と、J-PARC広報の阿部美奈子リーダー、井上直子氏が講師役を務めました。参加者は皆、熱心に工作、実験に取り組み、方位磁石を用いた電流と磁石の実験や支点と重心の位置を変えてみるコマの工作などから、素粒子が持つ特別な回転(スピン)について考えてみました。最後の質疑の際には、午前、午後とも、大人から「皆さんのような研究をするためには、子どもをどういう大学、分野に行かせれば良いのでしょうか?」など、熱心な質問がありました。本イベントを通して、電気、ミュオンや歳差運動などへの関心の高さが伺え、J-PARCについても興味を持っていただけたようです。
※多摩六都科学館は、西東京市に所在し周辺4市とで運営されている施設で、世界一に認定されたプラネタリウムがあり、観察・実験・工作が楽しめる体験型ミュージアムです。

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■ご視察者など

 11月27日 文部科学省大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)

 

 

■加速器運転計画

 1月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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■さんぽ道 ⑤ -鳥の水飲み場-

 

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 12月になると、常緑樹の葉が落ち、日光が地面を直接照らします。J-PARCの建設当時、工事エリア内に残した森の一角に水を引いて整備した鳥の水飲み場は、落ち葉が底に溜まりながらも水面が輝いています。これだけ明るいと、撮影する私たちは身を隠すところもないのですが、ヤマガラが近くの枝に止まったかと思うとすっと水飲み場の縁に降り立ちました。
 夏の間、この水飲み場は動物たちのオアシスとなっています。水を求めてやってくる昆虫やそれを狙うカエル、カエルを狙うヘビなどが賑やかに活動していましたが、それらの動物は冬眠状態になり、今は鳥が独り占めしています。
 人懐こく学習能力の高いヤマガラは、夏場よりも今の方が、ここが安全だと言うことを知っているのでしょう。J-PARC研究棟と物質・生命科学実験棟がそびえ、50GeV変電所のトランスが唸っている中で、ヤマガラは仲間を呼びながら、平然と水浴びをしています。
 コロナウイルスが猛威を振るう中、私たち広報も、施設公開を始め、アウトリーチや一般見学対応はほぼ中止になり、さながら冬眠状態に入ったように思われるかもしれません。しかし、私たちはこの小さな水飲み場の出来事のように、賑やかにオンラインで発信し、感染症対策を万全にしてできる限りの活動を継続しています。
 来年、コロナが収束した際は、また皆様と直接お会いできることを楽しみにしています。