J-PARC News 第256号
≪お知らせ≫
■ 9月13日(日)「J-PARC・原子力科学研究所 施設公開2026」を開催します!
9月13日(日)9:30~16:00、「見る、聞く、触る、先端科学!」と題し、J-PARC・原子力科学研究所が今年も合同で施設公開を開催します。普段は見る事ができない実験施設、加速器などの見学や、サイエンスカフェ、実験工作教室、キッチンカーなど、大人から子どもまでお楽しみいただけます。
入場無料、事前予約不要です。ぜひお越しください!
詳しくはこちら(施設公開特設ページ)https://j-parc.jp/OPEN_HOUSE/2026/
■ プレス発表
(1)氷の中でのミュオンの不思議な挙動を解明
-50年来の謎を解く鍵は「量子」の振る舞い-(7月10日)
ミュオンのスピン状態が水と氷の中で違うことは、ミュオンの研究が始まった約50年前から知られていました。しかし、その変化の仕組みについては未解明でした。
本研究グループは、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF) ミュオン施設 S1エリアの分光器「ARTEMIS」を用いて、20ガウスの磁場中で、打ち込んだ正ミュオンのスピンの時間変化を精密に測定しました。その結果、液体の水中では、ミュオンスピンの首振り運動のような規則的な波形の信号が長時間続くのに対し、氷中では信号がすぐに弱まり、かつ波の周期もわずかにずれることが分かりました。この現象を説明するため、MuOH分子中(Muは正ミュオンと電子の結合状態で水素原子に相当する)のミュオンスピンが周囲の水分子と量子力学的な相互作用をしているというモデルを構築しました。このモデルによって実験データを再現できることを確認し、氷の中でミュオンに量子効果が現れていることを明らかにしました。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/07/10001847.html
(2)抗血栓性高分子のバリア機能の原因を解明
-中性子散乱による中間水の状態の解析に成功-(7月21日)
体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた治療は、コロナウイルス感染症のみならず、重症呼吸器疾患の患者の生命維持に欠かせない医療技術として利用されています。血液が通る人工回路の表面は血栓が形成されにくい高分子材料でコーティングされていますが、長期間の使用が難しいという課題があることから、より優れた抗血栓性を有する新材料の開発が求められています。これまでの研究では、高分子との相互作用により形成される特殊な構造の水(中間水)がバリア層となることで血栓が形成されにくくなると考えられていました。しかし、そのバリア層の形成メカニズムは解明されていませんでした。
本研究グループは、J-PARC MLFのダイナミクス解析装置「DNA」を用いて中性子散乱実験を行い、抗血栓性高分子とその表面に吸着した水の運動状態を調べることで、抗血栓性のメカニズムの解明に取り組みました。その結果、高分子の表面に通常の水に比べて10~100倍遅くなった中間水が存在することを初めて実証しました。この成果は、中間水をより効果的に制御できる新たな材料設計の指針となり、安全性と性能を兼ね備えた次世代医療機器の開発を後押しすることが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/07/21001850.html
■ J-PARCハローサイエンス
「中間検出器 -船のように浮かび昇降するニュートリノ観測装置-」(7月31日)
素粒子原子核ディビジョンの阿久津良介氏が、ハイパーカミオカンデ計画の一環として建設が進むニュートリノ実験装置「中間検出器」建設の現状について紹介しました。
2028年度の運転開始を目指すハイパーカミオカンデ計画では、ニュートリノ振動をより高精度で観測し、CP対称性の破れの決定的な検証に挑みます。その計画で必要となるのが、現在建設中の「中間検出器」です。J-PARCのニュートリノ生成標的から約1km離れた場所に設置され、水を満たした立坑の中に検出器を浮かべて、水位の変化によって検出器が上下に移動する仕組みです。検出器の位置を変えることで、振動前のニュートリノのエネルギー条件を変えて観測し、ハイパーカミオカンデでの信号となるニュートリノ反応事象を精度良く測定することが可能になります。
参加者から海外の研究との連携に関する質問も多く寄せられ、また、中間検出器の建設に携わる方からは「研究内容を理解しながら、より精度の高い実験施設をつくっていきたい」との言葉もいただきました。
■ 東海村エンジョイ・サマースクール2026
(7月24、30日、8月5、20日、東海村歴史と未来の交流館)
東海村の地域、団体、事業所の協力のもと、小学生向けの体験イベント「東海村エンジョイ・サマースクール」が行われました。
J-PARCは「J-PARCハローサイエンス夏休み科学実験教室」と題して「ハドロンでアクセサリーをつくろう」「かたむいているのに倒れない!不思議なコマづくり」「石のちがいから、見えない中身を考えよう ― 鉱物って面白い!」や、「空気・真空って何だ教室」の4つの実験教室を行いました。
参加した子供たちからは、アンケートで「楽しかった」という感想をたくさんいただきました。科学の面白さを感じ、新しい発見や「もっと知りたい!」という気持ちにつながってくれることを期待します。
■ こども霞が関見学デーで工作教室を実施(7月29~30日、霞が関・文部科学省)
文部科学省をはじめ各府省庁等が連携して、夏休み期間中に展示などを行うこども霞が関見学デーが、今年も開催されました。今回のJAEAのブースでは、「見えない色が見える箱をつくろう!漆黒に浮かぶ虹色現象」というテーマで、工作を行いました。
まず黒いボール紙で四方を囲い、その表と裏を偏光版で覆った立方体の箱を作り、その中に透明な折り鶴を入れます。すると、箱の中の漆黒の闇に、虹のように様々な色がついた折り鶴が浮かび上がります。子どもたちは箱を回したり、首を傾げたりして、そのつど色が変わる折り鶴を不思議そうに眺めていました。
■ ミュオンにコーフンクラブ (7月26日、東海村歴史と未来の交流館)
ミュオンにコーフンクラブ今年度第3回の活動が行われました。
第1部では、藤井氏から2つの測定器について現況報告がありました。すでに報告されている1号機の観測結果を振り返った後、新たに昨年11月に設置された2号機の状況について説明がありました。2号機は、6月の台風による浸水被害や7月の高温によるトラブルに見舞われたものの、すでに対策を終えており、今後は順調な観測が期待されます。
続く第2部では、このプロジェクトに参加している7人の研究者が、「どんな子供時代を過ごして研究職に就いたのか」をテーマにプチ講演を行いました。発表を聞いた子供たちからは、「物理学科に行くには何をしておいたらいいですか?」など、一人ひとりが質問をしました。一番前の女の子からは女性研究者が少ないと思うがその理由を問う質問があり、参加した女性研究者からは、女性研究者はまだ少ないが、以前に比べれば多くはなってきていて、研究そのものには男女の違いは無いという回答がありました。
身近な研究者の子供時代の話や研究者になるまでの歩みを聞くことができ、参加した子供たちも自分自身と重ね合わせながら、熱心に耳を傾けている様子でした。
J-PARCさんぽ道 73 20年の歳月を経たMRの地上と地下-施設公開に向けて-
J-PARCにある3つの加速器では、陽子の通り道はすべて地下十数メートルにあります。最大の加速器、MRの加速器トンネルの真上には土が盛られ、1.6km続く人工の尾根が一周しています。しかし、木々が生い茂った今では、その全容を地上から見渡すことは難しくなりました。
MRの建設では、まず土を掘り下げてトンネルを造り、完成後に再び土を埋め戻しました。そして、搬入棟や電源棟、機械棟などの建物を除く地上部には、緑地をよみがえらせるために植林が行われました。2007年1月に竣工したMR施設は、20年が経ったことになります。
地下へ降りると、一周1.6 kmにも及ぶ地下トンネルの曲線部では、等間隔に並んだ照明が、穏やかな弧を描く壁や床に美しく反射しています。そこには、陽子ビームを導くさまざまな磁石が、寸分の狂いもなく整然と並んでいます。この光景は、以前から一見変わらないように見えます。しかし、その間にも機器の交換や改良などが行われ、陽子ビームのパワーは当時から飛躍的に向上しました。地下の加速器も地上に劣らず、着実に変化を続けています。
9月13日(日)に開催される施設公開では、MRの地下トンネルの中もご覧いただけます。お待ちしております。
