J-PARC News 第180号- ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、本号はHP掲載のみとさせていただきます。ご了承ください。 -
新型コロナウイルス感染症( COVID-19)が世界的に拡大する中、過酷な現場で日々ご尽力されている全ての医療従事者の方々に、心からの敬意と感謝をお伝えいたします。
J-PARC では、感染拡大防止の為に、施設の保安要員のみの出勤にとどめ、運転を休止しています。再開につきましては、HP などでご案内する予定です。
■ニュートリノの「CP 位相角」を大きく制限
-粒子と反粒子の振る舞いの違いの検証に大きく前進する成果をネイチャー誌で発表-(4月16日、プレス発表)
J-PARC の加速器を使ってつくったニュートリノを、295 km 離れた岐阜県神岡町にある検出器「スーパーカミオカンデ」に向けて飛ばし、観測する実験" T2K"(Tokai to Kamioka)。この実験で出た新しい成果の論文が、ネイチャー誌に掲載されました。
宇宙誕生時に、粒子と反粒子(質量や寿命は同じだが、電気的に反対の性質を持つ粒子)は同じ数だけ生成されました。その後、粒子と反粒子は出会って光のエネルギーに変わり、消滅していきます。しかし現在の宇宙では、粒子で構成された物質だけが生き残っており、反粒子で構成された「反物質」はほとんど見当たりません。これは、粒子と反粒子の性質にわずかな違いがあるためと考えられています。これを確かめるために、T2K 実験では、ニュートリノと反ニュートリノそれぞれが、東海から神岡に飛んでいく間に起こる変化(ニュートリノ振動)に違いがあるかどうかを明らかにしようとしています。
粒子と反粒子の性質の違いの度合いを示す「CP 位相角」は、理論的に-180 度から180 度のどの値も取り得ますが、その値は分かっていません。この値が0 度か180 度なら、粒子と反粒子の性質に違いがありません。実験グループは今回、この値が-2 度から165 度の範囲にはないことを99.7% の信頼度で示しました。さらに研究を進め、180 度の値も除くことができれば、ニュートリノ
振動で物質と反物質の性質の違いがある (CP 対称性が破れている) ことを99.7% の信頼度で示すことができます。
J-PARC では、生成するニュートリノの粒子数を増やしてより多くのデータを蓄積するため、また測定精度を向上させるために、加速器、ニュートリノ生成施設、前置検出器の増強に着手しています。将来的には、次世代検出器「ハイパーカミオカンデ」を用いて、素粒子の性質や、宇宙から反物質が消えた謎の解明に挑みます。
詳しくはこちら(J-PARC ホームページ)をご覧くださいhttp://j-parc.jp/c/press-release/2020/04/16000516.html
■J-PARC センターの3 名、令和2年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰「研究支援賞」受賞
J-PARC 加速器第六セクションの新垣良次氏(KEK 専門技師)と柳岡栄一氏(KEK 技師)および低温セクションの大畠洋克氏(KEK 技師)の3名は、科学技術分野の令和2年度文部科学大臣表彰「研究支援賞」を受賞しました。この賞は、研究開発の推進において、高度で専門的な技術的貢献で、顕著な功績があった者が対象で、新垣氏と柳岡氏は「大強度陽子ビームの遅い取り出し実現と高品位化への貢献」、また、大畠氏は「大型極低温システム建設運用によるニュートリノ実験への貢献」が認められたものです。それぞれの業績は、前者がJ-PARC のMR(メインリングシンクロトロン)からハドロン実験施設への陽子ビーム取り出し(遅い取り出し)のための静電セプタムおよびバンプ電磁石と軌道制御に関わるもの、後者は、MR からニュートリノ実験施設への陽子ビーム取り出し(速い取り出し)後の、ニュートリノ一次ビームラインに設置の超伝導電磁石群への極低温ヘリウムを供給するシステム(大型極低温システム)の建設・運用に関わるもので、それぞれJ-PARC の重要な成果です。
詳しくは、文部科学省のホームページをご覧くださいhttps://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00187.html
■生体膜における金属イオンと水の関係を探る
-中性子準弾性散乱からのアプローチ-(3 月30 日、プレス発表)
生体分子の機能発現に金属イオンと水がどのようにかかわっているかは、重要な研究課題です。中性子準弾性散乱は、中性子の物質による散乱の前後の微小なエネルギー変化を調べることにより、分子や分子集団の運動状態を調べる実験手法です。J-PARC の瀬戸教授(KEK) らは、J-PARC のダイナミクス解析装置「DNA」を用いた中性子準弾性散乱実験により、生体膜のモデル物質として様々な基礎研究に用いられるリン脂質が水中で親水基を水の側にした二重膜を形成している際に、水分子がどのような状態でリン脂質と結合しているかを調べました。その結果、「強結合水」、「弱結合水」、「自由水」の3 種類の状態が存在し、金属イオンのリン脂質膜への付き方によって「強結合水」の数が変化する一方で、「弱結合水」の数は変化しないことが示されました。このことから、「弱結合水」の形成には金属イオンは関与せず、リン脂質の親水基の性質で決まっていることが示唆されました。この知見は、人工心肺や人工血管など医用材料の表面にコーティングされる「生体親和性高分子」の表面に結合する水の状態の理解に役立つと考えられ、医用材料の開発につながっていくことが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC ホームページ)をご覧ください。http://j-parc.jp/c/press-release/2020/03/30000504.html
■大阪大学、名古屋大学の4 年生、J-PARC で卒業研究!(4月17日、HP 掲載)
大学4 年生の卒業研究といえば、指導教員の先生の研究テーマの一部を与えられてこなすケースが多い中、4 年生数人でチームを組み、自分達で取り組む研究テーマを決め、実験計画を立てて実行し、卒業論文を書く学生達もいます。J-PARC の三宅康博教授(KEK:当時、現 特別教授)は、そうした学部学生のためのインターンシップ制度を3 年前に立ち上げました。2019 年度も1 月に、2 大学の4 年生達がJ-PARC の先端の実験環境を利用して卒業研究を行いました。
大阪大学久野研究室の学生チームは、ニュートリノが「マヨラナ粒子」(粒子と反粒子が同一である粒子)であるかどうかを検証するために、マイナスのミュー粒子μ-(負ミュオン)が原子核と反応してプラスのミュー粒子μ+(正ミュオン)に転換する現象が起こるかどうかを探索しました。名古屋大学N 研(高エネルギー素粒子物理学研究室)の学生チームは、素粒子物理学の「標準理論」では起こらないとされている、プラスのミュー粒子(正ミュオン)の陽電子と光への崩壊が起こるかどうかを探索しました。どちらのチームも、事前に綿密な準備をして臨みましたが、初めての大型施設での実験で、準備不足や連絡不足から生じた事態に臨機応変に対応することを経験しました。この経験を糧に、学生達はこの4 月からは修士課程に進学し、先端研究に参画し始めています。今後のますますの活躍が楽しみです。
詳しくはこちら(J-PARC ホームページ)をご覧ください。https://j-parc.jp/c/topics/2020/04/17000518.html
●特別授業動画「J-PARC 加速器入門~ガウス加速器を使ってイメージをつかもう~」(3 月19 日、J-PARC ホームページ掲載)
新型コロナウイルス感染症対策のため、全国で多くの学校が臨時休校になっていることを受け、家庭で長時間過ごす小中高生のために、全国の大学・研究機関の広報担当者たちが集まる「科学技術広報研究会(JACST)」が、所属する機関の広報コンテンツの中から「子どもたちに見てほしい」と思う作品を集めたサイトを開設しています。
https://sites.google.com/view/jacst-for-kids/
J-PARC センターでは、加速器第五セクションの芝田達伸氏(KEK 助教)が、加速器について分かりやすく紹介する特別授業動画「J-PARC 加速器入門~ガウス加速器を使ってイメージをつかもう~」を新たに制作しホームページで配信しました。他にも、関連コンテンツを掲載していますので、是非ご覧ください。
http://j-parc.jp/c/topics/2020/03/19000493.html(J-PARC ホームページ)