■ J-PARC News 第120号より       (2015/04) 
●齊藤直人J-PARCセンター長からのご挨拶
  このたび、J-PARCセンター長を拝命しました齊藤直人です。池田裕二郎前センター長から重責を引き継がせて頂くにあたって、一言、ご挨拶申し上げます。

  J-PARCは、平成20年の利用運転開始以来、多目的施設にふさわしい様々な成果を上げてまいりました。ニュートリノ振動現象の解明や強い相互作用の研究、 新しい超伝導現象の発見や生体物質における機能解明、また新材料物質の開発などが代表的な例です。これらの研究を更に発展させ、宇宙・物質・生命の起源にまつわる謎に、チャレンジしていきたいと思います。



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  一昨年の放射性物質漏えい事故の反省に立ち、我々の研究は社会に支えられて成り立っていることをより一層強く認識しました。二度と同じ過ちを繰り返さないよう、J-PARC一丸となって、組織と施設の改革に取り組んでまいりました。今後も、安全に研究成果を創出する研究施設として、不断の努力を重ねてまいります。先人が築かれた国際的研究拠点であるこのJ-PARCを、国内外の研究機関との連携協力の促進、産業利用の充実、そして多目的施設の特徴を生かした分野横断的な研究により発展させていくこと、更に、ここで得られる研究成果を社会と広く分かち合うことで、日本の誇りと人類の発展に貢献する研究施設に育てていくことが、私の使命であると考えています。

  今後とも皆様のご理解とご指導、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。 
   
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●茨城県中性子ビームラインの産業利用について - 産業界の中性子利用が進展 -
  茨城県は、J-PARC物質・生命科学実験施設 (MLF) に中性子ビームラインを2本、材料構造解析装置「iMATERIA 」と生命物質構造解析装置「iBIX」を設置し、茨城大学などの関係機関とともに積極的に産業利用推進とその拡大を図っています。今回、新材料等の開発に繋がる先駆的な研究成果、タンパク質分野における世界初の構造解析事例、試料のメールインサービス (測定代行) などについての紹介を、茨城大学、J-PARCセンターと共同でプレス発表 (3/27) しました。
詳細は、ホームページ http://j-parc.jp/ja/topics/2015/Pulse150327.htmlをご覧ください。


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●クロムに7つの水素を結合 - 新たな水素貯蔵材料に期待 -
  東北大学金属材料研究所の高木成幸助教と同大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) の折茂 (おりも) 慎一教授らの研究グループは、水素と結合しにくいと考えられてきたクロム (Cr) に7つの水素が結合した水素化物の合成に成功し、J-PARCの物質・生命科学実験施設 (MLF) にある高強度全散乱装置 (BL21・NOVA) を用いて確認しました。

  水素を高密度に含む水素化物は、燃料電池として期待される水素貯蔵材料や、超伝導材料への応用が期待され、近年多くの注目を集めています。水素はほとんどの元素と結合して多様な水素化物を形成しますが、周期表の左から6番目の列から12番目の列に属する元素群とは結合しにくいことが古くから知られています (図1) 。これらの元素群はハイドライドギャップと呼ばれ、単独では常温常圧条件下で水素原子と結合できませんが、錯体水素化物※1を形成することで多くの水素原子と結合することができます (図2) 。唯一の例外がクロムであり、これまでは単独でも、錯体水素化物でも、いずれも水素とは結合しないと考えられてきました。
   


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  今回研究グループは、クロムの周辺に7つの水素が双五角錐状※2に配置したときに、クロムと水素が強く結合することを理論的に予測しました (図3)  。そこで、金属クロムとマグネシウム水素化物との混合粉末 (Cr + 3MgH 2) を5万気圧・700℃の水素流体中で4時間保持し、予測した錯体水素化物の合成を試み、J-PARC / MLFの高強度全散乱装置 (BL21・NOVA) で中性子回折測定※3を行いました。その結果、理論予測でシミュレートしたプロファイルと、実際に試料を測定した中性子回折プロファイルとで、ピーク位置・ピーク強度とも非常によく一致していました (図4) 。このことは、理論予測どおりに7つの水素がクロムに結合したCrH7の錯イオンを含む錯体水素化物Mg3CrH8が合成されたことを示しています。
   


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  本研究により、クロムが他の金属元素よりも多くの水素と結合することが実証されました。これにより、長年の課題であったハイドライドギャップを克服することができました。また、理論計算によると、クロムにはさらに多くの水素と結合できる能力が秘められており、今後は8つの水素が結合したCrH8イオンや9つ結合したCrH9イオンなどを含む錯体水素化物の合成が大いに期待できます。今回の成果は、燃料電池や超伝導体への応用が期待される新規水素化物の探索に向け、新たな指針を提示する重要な成果です。

  この研究は、日本原子力研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構、豊田中央研究所との共同研究による成果です。ドイツの科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」に現地時間の3月13日にオンライン掲載されました。

  ※1:錯体水素化物
  一部の元素に複数の水素原子が、例えば正四面体や正八面体のような特定の対称性を持って結合した原子群 (錯イオン) を含む水素化物です。これらの錯イオンは、周期表左端 (1族) の列に属するアルカリ金属や、左端から2番目 (2族) の列に属するアルカリ土類金属など、電子を放出しやすい元素から電子を受け取って安定な錯体水素化物を形成します。
  ※2:双五角錐状
  2つの合同な五角錐を底面同士で張り合わせた形状を持つ十面体。7つの頂点を持ち、そのそれぞれに水素原子が配置されている。図3参照。
  ※3:中性子回折測定
  回折とは波が障害物にあたったときに、その陰に回りこんで進んでいく性質のことを言います。中性子線も波の性質を持っており、原子核などに当たると回折します。結晶に含まれる原子核による中性子線の回折現象を利用すると、結晶の構造を詳細に決定することができます。
   
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●施設の状況
  (1) 加速器運転計画
  5月の運転計画は、下記の通りです。尚、機器の調整状況により変更が生じる場合があります。


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  (2) 実験施設関連
  ・MLFは、4月14日からビームパワーを400kWから500kWへ増強した利用運転に移行しました。

  ・T2K実験は現在、反ニュートリノ生成モードでの実験を進め、3月26日にはT2K実験開始以来、標的への入射陽子数が1兆個の10億倍 (1021個) を越え、順調にデータを収集しています。
   
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●T2K実験で標的に打ち込んだ陽子数が1兆個の10億倍を越える (3月26日) 
  T2K (Tokai To (2Kamioka) 実験では、2013年の電子型ニュートリノ出現現象の発見をはじめ、世界最高精度でのミュー型ニュートリノ欠損現象の観測など、最先端の成果を上げてきました。現在は、この宇宙になぜ反物質 (反粒子) が存在しないのか、という根源的な問題に迫ることを目指し、ニュートリノの反粒子である反ニュートリノを生成するモードでの実験を継続しています。2015年2月にはビーム強度320キロワットでの連続運転を達成しました。これは、 50GeVシンクロトロン (MR) からニュートリノ実験施設へ、2.5秒に1回、おおよそ170兆個もの陽子がニュートリノ標的に打ち込まれていることに相当し、シンクロトロン加速器から取り出されたパルス当たりの陽子数として世界最高記録となっています。
  この3月26日には、2010年1月にT2K実験のデータ取得を開始して以来、ニュートリノ実験施設で標的に打ち込んだ陽子数が、1000,000,000,000,000,000,000個 (0が21個:1兆個の10億倍) を超えました。反ニュートリノの性質に関する物理結果を得るためには、更なるデータの取得が必要となりますが、その成果に向けて着実にビーム強度・積分陽子数が上がってきていることになります。実験グループではこれらのデータの解析を鋭意進めているところです。
   
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●「開いてごらん科学の扉!- ママ怖がらないで!- 」
  J-PARCハローサイエンスin東京 (3月25日) 
     
   J-PARCハローサイエンスを初めて東京 (西東京市、谷戸幼稚園) で開催しました。今回の東京開催は、「創造的思考の工房 チビッ子アトリエ」の主宰者の方より、工房の課外教室にお招きをいただいたもので、テーマは「開いてごらん科学の扉!- ママ怖がらないで!- 」でした。小学生から高校生までの工房メンバーとその親御さん、合わせて30名程が集いました。
   冒頭、J-PARCの子供向けパンフレットを参考にして創られた寸劇や紙芝居で歓迎されました。続く科学実験では、坂元眞一広報アドバイザーが、電気や磁石の力で陽子を加速する原理を、身近な材料で作った実験装置を使って分かり易く説明しました。静電気や磁石の力が作り出す不思議な動きを目の前にして、皆さん、感激の様子でした。その後、参加者の皆さんに、持ち寄った空き缶やゼムクリップといった身近な材料を使って、"振り子ベル"と"クリップモーター"を手作りしてもらいました。工作に熱中し、うまく動いて喜ぶ母親の姿に、高校生からは、「母親が少女に戻った瞬間」と評されていました。参加した皆さんには、楽しみながら科学の一端に触れるひと時となりました。
   
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●J-PARC研究棟が竣工 (3月27日) 
   中性子線利用者への便宜供与を目的として建設を進めてきたJ-PARC研究棟がこのほど完成し、3月27日に竣工となりました。延べ床面積5,900u、地上4階建ての研究棟には、居室、各種実験準備室、計算機室や会議室等に加え、実験利用者等の相互交流を目的とした吹き抜けのアトリウム (広場) や談話スペースなどが整備されています。利用開始は5月中旬の予定です。

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●ハドロン実験施設関連
  (1) 住民説明会を開催 (4月3〜5日) 
  J-PARCセンターは、ハドロン実験施設の改修工事などを終え、このたび住民説明会を東海村で3回開催しました。延べ67名の方にご参加いただきました。また、報道機関からの取材は、延べ14社18名となりました。J-PARCセンターより改めて事故についてお詫び申し上げ、まず事故のあらましと問題点を説明し、その後、施設・機器に対する再発防止の実施状況、安全管理体制の強化と安全意識の向上への取組みを報告致しました。各会場では、皆様から多くのご質問にお答えするとともに、貴重なご意見を伺えるように、それらが出尽くすまでお時間を取り、説明会を閉会させて頂きました。各会場とも2〜3時間の説明会となりました。


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  (2) 利用運転再開 (4月24日) 
  J-PARCセンターは、平成25年5月23日に発生した放射性物質漏えい事故以降、ハドロン実験施設の運転を停止しておりましたが、事故再発防止に対応した施設の改修を完了し、茨城県や東海村、近隣自治体への報告、東海村内での住民説明会を実施してきました。そして、9日に、報道機関の皆様に性能確認についての説明及び施設見学を行い、当日夜、加速器からの陽子ビームで性能確認を開始しました。また、17日には、国の登録検査機関である公益財団法人原子力安全技術センターの施設検査を受け、問題の無いことが確認され、21日に合格証を受け取り、24日に利用運転を再開しました。


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●ご視察者など
    4月 13日  スウェーデンラジオ局、Jon M Thunqvist科学ジャーナリストによる取材

    4月 15日  canSAS (中性子小角散乱実験に関わる国際会議) 参加者

    4月 16日  財務省 井藤英樹主計局主計官 (文部科学係担当) 、他

    4月 20日  石川昭政衆議院議員
   
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