■ J-PARC News 第128号より       (2015/12) 
●“奇妙な粒子”が原子核の荷電対称性を破る現象を発見 (11/25、プレス発表) 
〜ハドロン実験施設の国際共同実験E13〜
  東北大学、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 、日本原子力研究開発機構 (JAEA) を中心とする国際研究グループは、J-PARCハドロン実験施設のK1.8ビームラインで実施したE13国際共同実験で、原子核に「奇妙な粒子」と呼ばれるストレンジクォーク (s) をもつラムダ粒子 (Λ) を加えることで、原子核のもつ基本的な対称性である荷電対称性が大きく崩れることを発見しました。
  原子核の陽子の数と中性子の数が入れ替わった原子核 (鏡像核) は、質量や構造がもとの原子核と同じになる荷電対称性という性質があります。図1 (左) のように、 三重水素 (3H) の原子核と、ヘリウム3 (3He) の原子核とは互いに鏡像核となっています。 3Heの原子核では、陽子同士の電気的反発力の効果がありますが、 その効果を差し引くと、質量が3Hとほぼ等しく同じ構造をもっていることがわかります。しかし、それぞれの原子核に、図1 (右) のように、ラムダ粒子を1個加えてできる水素4ハイパー核4ΛHとヘリウム4ハイパー核4ΛHeとでは、質量が大きく異なってしまうという不思議な現象が発見されました。

  この発見は、ラムダ粒子と陽子や中性子の間に働く力の解明にせまる重要な成果で、専門誌Physical Review Letters  (2015年11月24日出版) に掲載されました。また、同誌のEditors' Suggestion (注目論文) にも選ばれました。
詳細につきましては、http://j-parc.jp/ja/topics/2015/Press151125.htmlをご覧ください。

   


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●KEK-TRIUMFの分室設置に関する協定を締結 (12/4、在日カナダ大使館) 
  KEKとカナダ・トライアンフ研究所 (TRIUMF) はこれまで、協力協定を結び、素粒子物理や物質科学などの分野で共同研究を行ってきました。J-PARCにおいても、ニュートリノ研究やミュオン粒子を使った物質科学・基礎物理研究などに、TRIUMFの研究者が積極的に参画しています。KEKとTRIUMFは、この度、共同研究の更なる促進に必要な支援を行う分室を相互に設置するための協定を締結し、12月4日に在日カナダ大使館において、マッケンジー・クラグストン駐日カナダ大使、小松弥生文部科学省研究振興局長の立会いの下、両機構の長による協定署名式が執り行われました。署名式には、齊藤直人J-PARCセンター長も同席し、関係者とJ-PARCを使った研究を引続き推進していくことを確認しました。
   


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●10th Asia-Oceania Neutron Facility Directors Meeting, in conjunction the 15th AONSA Executive Committee Meeting  (12/3-4、東京大学物性研究所) 
  アジア・オセアニア中性子散乱協会 (AONSA:Asia-Oceania Neutron Scattering Association) の加盟国と地域の関係者が参加出席して、12月3日に第10回アジア・オセアニア中性子施設長会議 (FDM) 、4日に第15回AONSA-EC (理事会) が、東海村の東京大学物性研究所付属中性子科学研究施設で開催されました。FDMでは、アジア・オセアニア地域の代表的な中性子実験施設の代表者5名のほかオブザーバーが出席し、各施設の現状を報告しました。J-PARCからは、物質生命科学ディビジョンの金谷利治ディビジョン長が出席し、研究成果や最近の中性子源の状況などを報告しました。

  AONSA-ECは、Wen-Hsien Li会長などの役員とオブザーバー、16名が出席し開催されました。そこではまず、新たに設立されたインドネシア中性子学会の加入が承認されました。また次回のAONSA Neutron Schoolを来年11月にインドのムンバイで開催されることが報告されました。加えてAONSA Young Research Fellowshipの選考結果が報告され、3名の若手研究者が選出されそのうち1名をJ-PARCで受け入れることなどが合意されました。また、今回任期満了となる役員の交代が話し合われ、会長に現在副会長を務めるSung-Min Choi氏 (韓国科学技術院/KAIST) が、副会長にKEK物質構造科学研究所長の山田和芳氏が選任されました。
   


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●日本中性子科学会第15回年会で功績賞などを受賞 (12/10、埼玉県和光市) 
  12月10日-12日に、日本中性子科学会の第15回年会が、埼玉県の和光市民文化センター「サンアゼリア」で開催されました。10日の学会賞授賞式では、J-PARCに関わる研究業績などが評価され、池田進 KEK名誉教授 (元MLF副ディビジョン長) が「功績賞」を、鬼柳善明名古屋大学教授が「学会賞」を、そして、中性子利用セクションの服部高典氏と佐野亜沙美氏および東北大学の有馬寛氏 (元J-PARC) が、「技術賞」を、それぞれ受賞しました。また、同日、パルス中性子源の開発において世界的に多大な貢献をされた故 渡邊昇KEK名誉教授 (元J-PARCセンター特別研究員) の追悼特別講演が、日本中性子科学会の鬼柳善明会長により行われました。
詳細につきましては、 http://j-parc.jp/ja/topics/2015/Award151215.htmlをご覧ください。

●学会賞各賞の受賞者と受賞テーマなど
・功績賞 池田進KEK名誉教授、 (元MLF副ディビジョン長) 
「パルス中性子源を用いた物質中水素の量子状態観測」
補足:KEKのブースター利用施設 (KENS) における核破砕中性子源の建設から物質科学研究の推進と利用促進など、さらにKENSからJ-PARCへの移行やパルス中性子源を用いた水素科学研究ならびに施設運営面からの功績などが評価されました。

・学会賞 鬼柳善明 名古屋大学教授
「加速器中性子源の研究開発」
補足:J-PARCの中性子源開発への寄与、および、BL22エネルギー分析型中性子イメージング装置 (RADEN) の建設などが評価されました。

・技術賞 服部高典氏、佐野亜沙美氏 (中性子利用セクション) 、有馬寛氏 (東北大学、元同セクション) 
「超高圧中性子回折装置の建設と高温高圧下中性子回折の実現」
補足:パルス中性子ビームラインPLANET (BL11) の完成と、服部氏らのグループが開発した実験手法が世界に誇るべき技術として、中性子科学の発展に多大な貢献をしたことが評価されました。
   


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●加速器運転計画
   1月の運転計画は、次の通りです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。
   


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●The 7th AONSA Neutron School / The 3rd MLF School (12/1-5、J-PARCセンター) 
  物質・生命科学実験施設 (MLF) では、12月1日-5日にかけて、第7回AONSA中性子スクールおよび第3回MLFスクールが同時開催で実施されました。スクールは、アジア・オセアニア地域の若手研究者および大学院生を対象としたもので、合計41名の参加者がありました。そのうち、33名が外国籍で あり、MLFで行われるスクールへの期待の大きさが伺えました。スクールでは、中性子科学やミュオン科学などに関する講義に続き、ビーム実習が行われました。実習では、参加者の希望に応じて12の小グループに分かれて、様々なテーマで中性子またはミュオンを使った実験課題に取り組みました。参加者は、装置担当者から装置の説明や試料の取り扱いなどの説明を受け、過去に収集した実験データを使ってのデータ解析などを実施しました。最終日には、各グループごとに実習成果を発表する報告会が行われ、参加者が活発に議論する様子も見られました。
  ※日本でのAONSA中性子スクールは、2011年、2013年と2回にわたり予定されましたが、2011年は3月の東日本大震災、2013年は 5月のハドロン実験施設での放射性物質漏えい事故のため中止となりました。今回、スクール開催直前にMLF利用実験の一時休止という事態が発生しましたが、参加希望者のキャンセルもなく成功裡にスクールを終了しました。
   


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●多摩六都科学館サイエンスカフェ (11/23、西東京市) 〜時間って いったい何だろう?〜
     
   多摩六都科学館は、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) と共に、サイエンスカフェを開催しています。11月のサイエンスカフェに、広報セクションの坂元眞一氏が講師を務めました。J-PARCでは、正確な“時計”に合わせて多くの加速装置や実験装置が働いています。そこで“時間”をテーマに取り上げ、いろいろな実験から、謎多い“時間”の真の姿に迫ってみようという試みです。小学生から年配の方まで、幅広い年齢層の参加者で満席となりました。

  私たちも、日々時間の流れの中に暮らしていますが、改めて時間とはいったい何だろうかと考えると、とても不思議で捉えどころのない存在です。時間が逆戻りして昔に戻れたらいいなと思ったことはないでしょうか?そこで、英国王立研究所のクリスマス・レクチャー風に、参加者にお手伝いしてもらいながら様々な実験を披露し、“時間”について自ら考え、体感してもらいました。前半は、いろいろな時計が動く仕組みや体内時計という身近な話題で、ウォーミングアップ。後半は、話が少し難しくなりましたが、例えば、速く動くと時間がゆっくり進むという特殊相対性理論では、動きながらボールを真上に投げると、周りで見ている人には斜めにボールが飛んでいくように見えることを、なぜそんなことが起こるのか分かりやすく説明しました。現代の物理学では、時間の存在自体もあやふやになってきていますが、実は、私たちの時間は、私たち自身が創り出している考え方に話が進んでいきました。取っつきにくい話題ながら、とても“楽しい”サイエンスカフェとなりました。
   
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●J-PARCサイエンスギャラリー (12/12、東海村立図書館) 〜30分で分かる今年のノーベル物理学賞〜
    素粒子ニュートリノの研究業績で、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長とカナダ・クイーンズ大学のアーサー・マクドナルド名誉教授が今年のノーベル物理学賞の栄誉に輝き、12月10日 (現地時間) スウェーデンの首都ストックホルムで行われたノーベル賞の授賞式でメダルが授与されました。その授賞理由は、「ニュートリノ振動を初めて捉えニュートリノに質量があることを証明した」とのことですが、色々な人からよく分からないという声が多く寄せられました。そこで、広報セクションの坂元眞一氏が、「素粒子とは何?」というところから受賞の研究成果までをやさしく解説するというサイエンスギャラリーを、村内の図書館を会場に開催しました。午前から夕方の時間帯で30分のミニ講演を5回行い、合わせて約50人が会場を訪れました。梶田氏がニュートリノ振動を発見したスーパーカミオカンデ検出器には、J-PARCからも加速器で作ったニュートリノビームを発射して研究を進めるT2K実験 (梶田氏もコラボレータとして参加) が行われており、併せて説明を行いました。講演の後には、参加者からのいろいろな質問に、実験器具も使いながら丁寧に解説しました。また、スーパーカミオカンデで使われている光電子増倍管の実物を展示し、その大きさに参加者は圧倒されていました。村内の中学生からは"話を聞けて良かった"との感想を受けたり、ニュートリノ振動のことがよく分かったという年配の方まで、楽しく、ためになるサイエンスギャラリーとなりました。
   


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●ご視察者など
    12月  2日  ブドカー原子核物理研究所 P.V.Logachev所長 他御一行
   
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