■ J-PARC News 第96号より       (2013/3) 
●J-PARCで世界最大のパルス中性子ビーム強度を確認
  物質・生命科学実験施設 (MLF) ではパルス中性子源に、陽子ビーム入射にともなう水銀標的容器が受ける衝撃力の緩和策を昨年11月に施し、その後、加速器出力300kwの利用運転を本格化した。今回、BL10の中性子源特性測定装置 (NOBORU) を用いた実験データの解析により、1パルスあたりの中性子数が約65兆個であることが分かり、世界最大強度のパルス中性子源になったことを確認した。初の中性子発生は平成20年5月。   (3/21、プレス発表) 
  詳細については、プレス発表記事
 (KEKホームページhhttp://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20130321140000/)、
 (JAEAホームページhttp://www.jaea.go.jp/02/press2012/p13032101/index.html)をご覧下さい。


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●T2K実験、ミューニュートリノ欠損現象に関する最新結果を発表
  T2Kニュートリノ振動実験は、J-PARCニュートリノ実験施設で生成した大強度ニュートリノビームを295km離れた東京大学宇宙線研究所のニュートリノ観測装置スーパーカミオカンデ (SK) へ打ち込み、ニュートリノとSK内に満たされている超純水との反応を約11,000本の高感度光センサーで観測することで、3種類 (世代) のニュートリノの質量や、その混ざり方 (混合) を詳細に研究する実験である。3世代あるニュートリノが質量をもち世代間の混合がある場合、ある世代のニュートリノが飛行中に他の世代のニュートリノに変化する「ニュートリノ振動」という現象が起こる。2011年には、T2K実験でミューニュートリノが電子ニュートリノに変化したと考えられる事象を世界で初めて観測したことが大きなニュースとなった (2011/6/15プレス発表) 。

  今回、2012年夏までに得られたデータを調べた結果、ミューニュートリノが飛行中にタウニュートリノに変化したために、本来観測されるべきミューニュートリノの数が減少する、“ミューニュートリノ欠損”という現象においても大変重要な結果が得られた。ニュートリノ振動現象が起こらないと仮定した場合に予想されるミューニュートリノの数やそのエネルギーの分布にくらべて、実際にSKで観測された事象数が大幅に少なく、かつそのエネルギー分布にニュートリノ振動に特徴的な、エネルギーに依存した振動パターンが詳細に観測されていたことが明らかになった (図1、図2) 。その減少の割合と振動パターンから、ニュートリノの第2〜第3世代間の振動を記述するパラメータである、質量の二乗差およびその混合の度合を表す角度θ23の値を解析したところ、米国の加速器で行われたMINOS実験や、日本のスーパーカミオカンデが進めている大気ニュートリノ実験による結果を抜いて、混合角θ23を世界最高の精度で決定できたことが分かった (図3) 。この結果は、カナダのLake Louise Winter Institute  (2月) での会議で初めて公表され、その後イタリアのベニスで開催のNeutrino Telescopes  (3月) などの国際研究集会でも報告され、世界の研究者の注目を浴びている。現在、3種類あるニュートリノ世代間の混合角については、θ23の精度が一番低く、この結果は今後、3世代あるニュートリノの質量と混合の全容を明らかにし、さらには素粒子の基礎的性質 (レプトンのCP対称性の破れ) の発見へとつながる大きな前進であると言える。

  T2K実験は世界12カ国から500人を越える研究者が参加する国際共同実験で、日本からは高エネルギー加速器研究機構、東大宇宙線研究所、大阪市立大、京大、神戸大、東大、宮城教育大の総勢約80名の研究者と学生が実験の中心メンバーとして参加している。

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●ワークショップ「J-PARC 核変換実験施設の多目的利用」を開催
  3月18日、TKPお茶の水カンファレンスセンターにおいて、「J-PARC核変換実験施設の多目的利用」と題するワークショップを開催、90名を越える参加者となった。J-PARCでは、加速器駆動システム (ADS:Accelerator-driven System) を用 いて放射性廃棄物の環境負荷を低減する「核変換技術」の研究開発を行う「核変換実験施設」の建設を計画している。本研究施設は、J-PARC建設にあたり掲げた3つの大きな研究項目の1つではあるが、U期計画の位置付けにあった。

  ワークショップでは、池田裕二郎J-PARCセンター長から挨拶や開催主旨説明などの後、核変換セクションより、核変換技術の意義や施設の概要などが報告された。施設検討では、核破砕ターゲットへ入射する陽子ビームの分岐利用や核破砕ターゲットからの二次中性子ビーム利用などの多目的利用施設を考えており、ユーザーから提案されている活用例を4件紹介頂いた。その後、東京大学山下了准教授の司会で、活用例の紹介者、J-PARC関係者により「量子ビームの多目的利用のニーズ」と題してパネル討論が行われた。施設の多目的利用に向けた課題や、あり方などについて多くの意見を頂き、活発な議論が行われた。また、ユーザーコミュニティ立ち上げの提案があり、出席者の合意が得られた。最後に、大井川核変換セクションリーダーが、施設へのニーズの吸い上げ、利用者の拡大などを推し進めることを明言し、また建設着工に向けた協力を依頼して会を締めくくった。

   ※    (分野/講演者・パネラー/所属) 
       (1)  基礎物理T 西尾勝久氏  日本原子力研究開発機構(JAEA) 先端基礎研究センター
       (2)  基礎物理U 石山博恒氏  高エネルギー加速器開発研究機構 (KEK) 
       (3)  医療RI製造 中井浩二氏  大阪大学 核物理研究センター (RCNP) 
       (4)  産業利用   杉本憲治氏 HIREC株式会社


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●加速器運転計画
  4月の運転計画は、下記の通りです。尚、運転計画は、機器の調整状況により変更が生じる場合がある。詳細は、J-PARCホームページの「J-PARCの運転計画」http://j-parc.jp/ja/Operation/Operation-j12_0903_Shalf.htmlでご確認願います。

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●加速器施設 (リニアック) 
  リニアックでは、イオン源のフィラメントを加速器運転サイクル毎に新品と交換している。これまでのイオン源運転においてフィラメント電流の経時変化を観察してきた結果、電流値変化からその寿命(断線時期)が推定出来るようになった。RUN#46の運転サイクルでは、運転開始後47日目となる2月20日の午前中に断線する兆候が確認された。運転中の断線は、フィラメント交換のために加速器の運転を停止させるため、加速器稼働率を下げる事になる。そのため、フィラメントの交換には、迅速な対応が必要となる。今回は同日23時01分にイオン源フィラメント異常警報が発報し、装置担当者がフィラメント断線を確認、その後復帰に係る一連の作業を済ませイオン源は7時25分に運転を再開した。

  リニアックでは、運転と並行して現在、大電流ビーム加速用の高周波四重極 (RFQ) のテストスタンドを整備している。また、震災復旧工事関連では、建家内部の床陥没部の補修工事、建家廻り及び周辺道路の補修工事を完了した。
●実験施設関連
  物質・生命科学実験施設 (MLF) では、順調に利用運転が実施されている。また、中性子源グループは2013〜2015年に中性子反射体予備機の製作を予定しており、現在、それに組み込むベリリウム構造体をカザフスタンで製作中。さらにMLF建家補修工事などでは、建家西側に設置の緊急時避難階段設置工事や、屋上に設置の集光器から実験ホールへの採光システム整備が進められている。ハドロン実験施設では、実験ホール北側のK1.8実験エリアに設置されている超伝導電磁石 (SKS) を、今後、実験ホール南側に移設する計画で、SKSのスライド構造化に向けた床基礎工事が行われている。また、新設のK1.1ビームラインに設置する大型電磁石 (FM電磁石) の土台床工事も進められている。ニュートリノ実験施設では、8月以降に電磁ホーンの交換を予定している。この程、米国・コロラド大学で製作された第2電磁ホーンの2号機が、2月27日にKEKつくばの物理実験準備棟に納入され、今後、通電動作試験などを予定している。

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●国際アドバイザリー委員会 (IAC2013) を開催
  2月25-26日、J-PARC国際アドバイザリー委員会 (IAC2013) を、いばらき量子ビーム研究センターで開催した。 IACに向け2月中旬〜下旬には、中性子 (NAC) 、加速器 (A-TAC) 、ミュオン (MuSAC/MAC) アドバイザリー委員会が夫々、同センターなどを会場に開催された。IACでは、各委員会で行われた現状報告や技術開発、将来計画などの報告、質疑応答や議論のまとめが報告された。また、J-PARC関係者から全体の進捗状況、前年度の委員会から受けた提言への対応状況、今後の5年計画などを報告し、J-PARCが世界をリードする大強度ビーム利用実験施設であることを委員の方に示した。また、各施設のユーザーがJ-PARCへの要望などを報告した。そして最後に、それら報告に対する評価、提言を受けた。

  ※MuSACは、KEK物質構造科学研究所長からの諮問を受けた委員会で、MACはJ-PARCセンター長からの諮問を受けた委員会。ミュオン科学が目指す方向性やMUSE施設の運転・維持管理について、両委員会が合同で開催された。

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●英国科学技術施設会議 (STFC) のCEOが来訪
  現在、世界ではJ-PARC (日本) 、SNS (米国) 、そしてISIS (英国) の3つの核破砕パルス中性子源が稼働中で、中性子などの利用実験が盛んに行われている。ISISは、英国科学技術施設会議 (STFC:Science and Technology Facilities Council) が所管する施設の一つで、その最高責任者 (CEO) のJohn Womersley博士と、国際協力担当部門のPeter Fletgher博士が、「J-PARC及びJAEAとイギリスの研究機関・施設間の更なる国際協力を推進するための協力・支援体制」についてJ-PARCセンター及びJAEA関係者と意見交換を行うため来日した。

  両氏は、2月25-26日に開催のJ-PARC国際アドバイザリー委員会のメンバーとして参加のSTFC特別顧問Andrew Taylor博士と共に来日し、委員会前日の24日にJ-PARC施設を視察、各実験施設の責任者などが物質・生命科学実験施設、ハドロン実験施設、ニュートリノ実験施設を案内した。IAC開催の25日は、委員会にオブザーバーで参加するとともに、池田裕二郎J-PARCセンター長と懇談、また、J-PARC担当の横溝英明JAEA理事と面会され、今後の国際協力の進め方などが話し合われた。

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●第2回J-PARCコロキウム開催
「中性子線とX線を用いた科学 - 基礎から応用まで - 」
  2月27日、第2回J-PARCコロキウムをいばらき量子ビーム研究センターで開催した。講師は、オーストラリア・ナショナル大学教授、イギリス王立協会およびオーストラリア学士院フェローのJohn White氏。講演は、科学が歴史的にどのように発展し、応用されてきたか、その発展にかける研究者の情熱と成果、そして世界最強パルス中性子源をもつJ-PARC物質・生命科学実験施設で展開されるであろう将来の科学的成果への期待など、多岐に及んだ。J-PARC建設時から昨年までJ-PARC国際諮問委員会委員長として、J-PARCのプロジェクトに深く関わってこられたWhite氏の講演は、特にJ-PARCスタッフにとっては、興味深いだけでなく、勇気づけられ、また大変刺激を受けるものであった。

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●ご視察等
     3月12、22日 EDIT2013参加者
         (将来の高エネルギー物理学を担う国内外の若手研究者を対象とした国際的スクール) 
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