■ J-PARC News 第97号より       (2013/4) 
●J-PARC開発のシンチレータ検出器、核セキュリティ用 (保障措置) 中性子計測に貢献
  ヘリウム3ガス (3He) を用いた中性子検出器は、J-PARCや海外のパルス中性子源施設に整備された中性子散乱実験装置や、核セキュリティ分野における中性子検出器として世界中で広く使用されている。近年、この3Heガスが深刻な供給不足となり、代替検出器の開発が急務の課題となっている。このような中J-PARCでは、茨城県生命物質構造解析装置 (iBIX-BL03) や特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置 (SENJU-BL18) 用に開発した、波長変換ファイバ型二次元シンチレータ検出器 (茨城大学との共同研究、平成21年4月、プレス発表) をベースに、各国の中性子散乱実験施設などとの国際協力のもと、大面積型の3He代替検出器の開発を進めている。一方、文部科学省 (核不拡散科学技術推進室) が進める「核セキュリティ強化推進事業」でも、JAEA核不拡散センターが中心となって、核セキュリティ用途での3He代替検出器を開発している。J-PARCが独自に開発したZnS/10B2O3セラミックシンチレータと波長シフトファイバを用いた二次元検出器 (図1) は実用化に向けて他をリードしている。

  今回J-PARCでは、このセラミックシンチレータなどと中性子計測技術を「核セキュリティ用途」用に改善・最適化し、核燃料中に含まれるウラン (U) 、プルトニウム (Pu) などからの中性子を測定する保障措置用非破壊測定装置の代替3He検出器を完成させた (図2、3) 。本検出器は、JAEA原子力基礎工学研究部門設計の装置に60本以上が装填される予定で、高い検出効率での中性子測定が期待されている。これまでJ-PARCで培ってきた中性子計測技術は、核セキュリティ分野の中性子計測においても生かされている。


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●中性子実験装置「iBIX」によりニッケル-鉄触媒の水素活性化メカニズムが解明
  物質・生命科学実験施設 (MLF) の茨城県生命物質構造解析装置 (iBIX) における中性子利用実験で、新規に開発された「Ni-Fe触媒」の水素活性化メカニズムが解明された。化学反応を促進 (抑制) する触媒に安価な鉄が使用出来たことは、今後の燃料電池用触媒などへの応用が期待される画期的なもので、iBIXの優れた性能による成果でもある。この研究成果は米国科学雑誌「サイエンス」電子版に掲載 (H25 /2/7) された。九州大学、CROSS、茨城大学の共同研究。詳細につきましては、CROSS HP (http://www.cross-tokai.jp/ja/news/2013/v13001/) をご覧ください。

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●特集:J-PARC/MLFに建設中のミュオンビームライン
<低速ミュオンビームライン:Sライン>
  J-PARC/MLF第1実験ホールのミュオン実験エリアでは、低速ミュオンビームライン (Sライン) の建設が開始された。Sラインは、物質材料開発の研究で最も利用される機会の多い正ミュオンに特化した利用を目的としている。Sライン全体が完成すれば、ミュオン生成標的からのミュオンビームは4つの実験エリアに分岐され (図1参照) 、同時にビームが供給される。各実験エリアには、ミュオンビーム利用研究の裾野を広げつつ高度化を目指すμSR (ミュオンスピン回転・緩和・共鳴) 法の実験装置が提案されている。それらは、極低温環境実験装置 (S1ライン) 、パルス状極限環境実験装置 (S2ライン) 、高い時間分解能での測定が行える実験装置 (S3ライン) 、光電子増倍管に代わる光電素子半導体 (μPMT:次世代光電子増倍管) の採用を考えている実験装置 (S4ライン) である。

  ※μSR実験:試料内部でミュオンが崩壊する時に放つ陽電子を、試料前後に多数配置したシンチレータ、光電子増倍管 (PMT:Photo MultiplierTube) などを使って検出し、試料内部のミクロな磁場を測定する実験。
  ※光電子増倍管:極微弱な光までを検出できる光センサーで、通常の製品は小型なもので直径1.5p、長さ5p程度の筒状の真空管。S4ラインでは、陽電子検出部のPMTを半導体化 (μPMT) することで小型化を図る予定。


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●加速器運転計画
  5月の運転計画は、下記の通りです。尚、運転計画は、機器の調整状況により変更が生じる場合がある。詳細は、J-PARCホームページの「J-PARCの運転計画」http://j-parc.jp/ja/Operation/Operation-j12_0903_Shalf.htmlでご確認願います。

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●加速器施設
  リニアックでは、高周波四重極型リニアック (RFQ) のテストスタンドでイオン源、高圧電源、RFQなど各機器の単体試験を実施している。また、今年の夏から秋にかけての長期シャットダウン期間中に加速器後段部に設置する環状結合空洞型リニアック (Annular Coupled Structure Linac, ACS) の600kWハイパワー試験のため、空洞搬入調整室でACSの真空確認などの準備作業を進めている。3GeVシンクロトロンでは、MLFへの陽子ビームシングルバンチ運転を3月27日〜4月1日にかけて実施した。また、50GeVシンクロトロンでは、3月中旬にハドロン実験施設への陽子ビーム取出しに使われている低磁場セプタム電磁石の1台にトラブルが発生した。このため、電磁石を一旦ビームラインから取り外し、リニアック棟へ搬出し原因調査を行ったところ、セプタムコイルの不具合が確認された。交換用セプタムコイルは、製造メーカーの協力を得て約1カ月という短期間で製作され、4月27日のハドロン利用運転再開に向けて交換・調整作業などを行い、22日にビームラインへ再設置された。

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●3GeVシンクロトロン (RCS) シングルバンチ運転 (3/27〜4/1) 


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  物質・生命科学実験施設 (MLF) のパルス中性子源では、3GeVシンクロトロン (RCS) から25Hzでパルス陽子ビーム (パルス幅は約0.6μsec) を受入れ、核破砕反応により生成されるパルス中性子ビームが中性子実験に利用されている。通常RCSでは、陽子をダブルバンチ (2バンチ) で加速し、出射キッカー電磁石でダブルバンチの陽子を同時に取出して、それを1パルスとしている。従って、中性子源で生成される中性子ビームには、ダブルバンチに起因する線源特性を有し、データ解析の不確定を大きくしている場合がある。そのため、中性子利用実験ではシングルバンチ運転を望む実験もある。今回、中性子核反応測定装置 (BL04) 及び中性子源特性試験装置 (BL10) では、シングルバンチ運転による中性子利用実験を実施し、その特性データを取得した。このデータを用いることにより、解析結果の精度を向上できるものと期待される。

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●実験施設関連
  物質・生命科学実験施設では、超低速ミュオンビームライン (Uライン) の建設が進められている。3月22日には超低速ミュオン生成用レーザーシステムが搬入され、設置・調整作業を行っている。ハドロン実験施設では、各ビームラインでの機器調整、K1.1ビームラインの建設工事などを進めた。ニュートリノ実験施設では、3月7日までの運転期間に、約220kWの ビーム強度で順調にデータを蓄積した。加速器運転計画の変更に伴い、3月26日から予定の利用運転を19日に繰り上げて実験を再開した。ターゲットステーション棟では、T2Kニュートリノ実験における海外の共同研究者とともに、グラファイト標的予備機の第1電磁ホーン予備機へのインストール試験を行った。また、ターゲットステーション棟エリアの放射線管理区域拡張に伴い、建家周辺に境界フェンス、出入り監視装置などを設置した。

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●木村敦氏、日本原子力学会賞「論文賞」を受賞 (3/26) 
  原子炉の運転にともない発生する使用済み核燃料中には、数万〜数十万年と長い期間にわたり放射線を放出する放射性核種 (MA:マイナーアクチノイド核種) や長寿命核分裂生成物 (LLFP) 等が含まれている。このような物質を分離抽出して中性子を照射し短寿命化することで、地層処分などでの環境負荷の低減化を図る事が考えられている。その効果を事前に評価するには、それら核種の中性子捕獲反応断面積 (反応の度合を表す数値、単位:barn) を精度良く測定することが必要である。

  J-PARC物質・生命科学実験施設 (MLF) のBL04に設置された中性子核反応測定装置 (ANNRI、写真1、2) は、大強度パルス中性子源と高性能ガンマ線検出器により、高い精度で捕獲反応断面積の測定が出来るよう設計された実験装置である。装置は、試料とするMA核種などに強力なパルス中性子を照射し、中性子捕獲により放出される即発ガンマ線を、全立体角Ge (ゲルマニウム) スペクトロメーターで精度良く検出するものである。

  これまで、使用済み核燃料中に含まれる244Cm及び246CmなどのMAは、その核種自体の崩壊で発生する放射線により測定バックグラウンド (ノイズ) が高く、中性子捕獲による即発ガンマ線の測定が非常に困難なため、入射する中性子エネルギーが数eV付近から上のエネルギー領域 (共鳴領域と呼ばれる) での測定データは1969年に行われた原爆実験による1件のみであった。今回、木村氏 (写真3) らはANNRIを用いて、244Cmの中性子捕獲反応断面積を2〜300eVのエネルギー範囲で高精度に測定できることを実証した (図1) 。この結果は、今後高い放射能の試料に対する捕獲断面積測定の有効性を示したこととなり、この成果が評価され今回の受賞となった。

  注1) 論文題目:「Neutron-capture cross-sections of 244Cm and 246Cm measured with an array of large germanium detectors in the ANNRI at J-PARC/MLF」
注2) 受賞者:木村敦研究副主幹 (原子力基礎工学研究部門応用核物理研究グループ (兼) J-PARCセンター中性子利用セクション、JAEA) 、後神進史主任研究員 (元原子力基礎工学研究部門応用核物理研究グループ特定課題推進員、現在JNES:独立行政法人原子力安全基盤機構) 、及び 藤井俊行准教授 (京都大学原子炉実験所) 。
  注3) 中性子核反応測定装置 (ANNRI) 文部科学省委託事業として開発された中性子実験装置。平成23年6月、日本原子力研究開発機構が文部科学省より物品無償貸与の承認を受け、「パルス中性子を用いた原子核科学研究及び中性子核反応測定装置を用いた測定・分析技術の促進」を目的に使用することが認められた。


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●アメリカ物理学会年会で「J-PARCの将来計画」について招待講演 (4/14) 
  4月13〜16日、米国物理学会年会がコロラド州デンバーで開催され、その招待講演で池田裕二郎J-PARCセンター長が「J-PARCの将来計画」と題して招待講演を行った。また、15日にはT2Kニュートリノ実験に参加しているコロラド州立大学で開催されたコロキウムにおいて、J-PARCのIntensity Frontierに関して、現在、大強度二次粒子ビームを利用した研究施設として世界のトップクラスとなったJ-PARCについて講演を行った。
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●平成24年度のJ-PARC運転状況
  2012年4月〜2013年3月のJ-PARC加速器運転時間は、合計6,328時間。各実験施設の利用運転では稼働率が、物質・生命科学実験施設が93%、ハドロン実験施設およびニュートリノ実験施設共に88%〜89%と、概ね良好な状態であった。これまで加速器から実験施設へのビーム停止の要因の多くは、リニアック初段部のRFQ (高周波四重極加速空洞) によるものだった。しかし、2012年4月以降、加速器のビーム停止回数はRFQによるビーム停止は他の要因に比べて多いものの、短時間で自動復帰できるため、ビーム停止時間の要因として最も長いリニアックの直流高圧電源に比べて約半分と、RFQの運転は安定した状態となっている。


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●ご視察等
     4月12日 近藤悟 原子力科学研究所所長
     4月16日 菅野博 東海村経済環境部長
     4月17日 増子宏 文部科学省研究開発局原子力課長
     4月17日 KEK-DESY (ドイツ電子シンクロトロン研究所) コラボレーションミーティング参加者

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